2回目の出会えた奇跡というものは

今日、樋口先生から卒業式の合唱に関するお知らせがあった。
「例年は、卒業式に二曲の歌を歌っていましたが今年は時間の都合によって卒業式では一曲しか歌わないことになりました。」
私は、伴奏者のため先に知らされていたがクラスの子達は驚いた様子だった。
「じゃあ、今練習してる曲をどっちかやめるってことですかー?」
周りから「じゃあもっと早く教えて欲しかったー」「もったいない!」などの声があがっていた。
「いいや、曲はどっちも歌うから大丈夫だよ。今年は卒業式の他に六年生のための会を開くことにしたんだ。」
「え〜?」
みんながそう言った。私も、その会について詳しくは知らされていなかったのでどんなものか気になっている。
「全校で卒業生のために出し物をしてもらうと言う行事だよ。そこで、六年生は一から五年生のためにもう一曲の歌を歌うってこと。だから、両方ちゃんと練習するんだぞ!」
「はーい!」

話が終わった後、クラス全体がその話題で持ちきりだった。
「なんか豪華になりそう!」
ほんとにその通りだった。私が弾く曲は、その会の曲なので楽しみだった。

気がつけば、指揮者のオーディションも終わり総合リハーサルの日になっていた。私の緊張さ加減は尋常じゃなかった。
「大丈夫だって!」
先程から、蘭々ちゃんと静葉が勇気づけてくれている。
「あっ、もう時間だ。じゃあ華花がんば!」
「ん〜…」
私も位置について鍵盤に指を乗せる。
指揮者がこちらに向かってアイコンタクトをする。そして、腕を振る。この瞬間は、もう慣れたはずなのにいつまで経っても初めての様な気がする。ジャメヴかな。
順調だった演奏中少し意識が周りに飛んだ際、うっかり指が滑り鍵盤を押すことができなかった。そこから一気にドミノ倒しのように弾けなくなって…最悪の事態。止まってしまった。緊張で思い出せるものも思い出せない。目の前の楽譜を読もうとするが楽譜を読むのが極端に苦手な私。全然読めない。その間みんなは動揺しながらもアカペラ状態で歌ってくれていた。
次から入るぞ…少し止まって落ち着いてきたのか、次の部分を思い出せるようになってきた。

そしてもう一度鍵盤に指を乗せた。

気づけば、とっくに演奏は終わっていて感想交流をしていた。みんなは何事もなかったかのように感想を言い合っていて、私にはそれがささやかな優しさだと感じた。心の底から感謝したい。
「華ちゃんめっちゃうまかったじゃん!凄い!」
お世辞に聞こえなくもないが有り難くその言葉を受け取った。
「…でも、一回演奏止まっちゃった。ごめんね、みんなにも迷惑かかったよね…」
申し訳なくそういうと、蘭々ちゃんは本当によくわからないと言ったような顔でこちらを見た。
「え?全然!そんなの間違えることなんて誰にもあることだし、もう一回は途中から入れたんだから凄いよ!ねえ遥〜」
蘭々ちゃんは遥ちゃんを連れてきた。遥ちゃんは、なんのことかいまいち分からなかったようだったが蘭々ちゃんを見てなんとなく勘づいてくれたみたい。
「うん。私たちなんてあんなのちょっとも弾けないしね〜」
笑顔でそう言ってくれた。
「有難う!」
二人は、これからも応援してるよ!と言ってくれて、私の周りにこんな友達がいるなんて幸せだなと、しみじみ思った。