三章
同窓会の当日、柚子は透子と待ち合わせた。
柚子の姿を見た透子はあきれ顔。
「なんて言うか、若様の独占欲が前面に押し出されたファッションね」
「ははは……」
柚子も乾いた笑いしか出てこない。
今の柚子は、首元のつまった長袖のブラウスに、足首まであるロングスカート。アクセサリーの類いはなし。と言った、同窓会に行くにはなんとも味気ない服装だった。
だが、当初は違ったのだ。
久しぶりの同級生との再会ということで、中でもお気に入りのかわいい膝丈のワンピースに、それに合わせたネックレスとイヤリングをして綺麗におめかししたのだ。
それなのに、着飾った柚子を見た玲夜は、柚子のクローゼットからシンプルすぎるブラウスとスカートを選んできて、これを着なければ行かせないと言い出したのだ。
あからさまに肌の露出を抑えた地味な服装に柚子は当然不満をぶつけたが、なぜかそこに祖父までもが玲夜の味方に付き、柚子は泣く泣く地味な服装で行くことになった。
もちろん、身に着けていたアクセサリーも没収である。
ウキウキとした気分が朝から台無しであったが、同窓会に行くためには仕方がないと諦めた。
「はぁ……」
知らず知らずのうちに深い溜息が出る。
「まあ、若様にバレたらそうなるわよね」
『それに思いの外いつもより護衛が多いぞ』
柚子の護衛兼お目付役として付いてきた龍が周囲を窺ってそう口にする。
「若様よっぽど心配なのねぇ」
「そう言う透子は、にゃん吉君大丈夫だったの?」
「柚子みたいにバレてないからね~。それにあんまりにゃん吉は文句言わないから、普通に行ってこいってさ」
「羨ましい」
東吉も花嫁を持つあやかしらしく透子への独占欲は強いのだろうが、ふたりの場合は透子が尻に敷いているので、あまり東吉も強くは出られない。
譲れないところは東吉も引かなかったりするようだが、全体的には透子の言葉の方が強い印象がある。
だが、柚子と玲夜の場合はどうしても柚子が従うということが多い気がしている。
「私も透子みたいに玲夜を尻に敷けるように頑張る」
「無理じゃない?」
『我も無理だと思う』
「あーい」
「あい」
透子と龍ばかりか、肩に乗る子鬼たちにまで否定されて、柚子はがっくりする。
「落ち込んでないで行くわよ。遅刻しちゃう」
「うん、そうだね」
同窓会が行われるのは、中学校の近くのカフェだ。
そこはクラスメイトの実家ということもあって、今回の同窓会で貸し切りにしてもらっている。
カフェに入れば、すでに賑わいを見せていた。
中学卒業以来会っていなくて誰か分からない者もいれば、よく知っている友人もいる。
柚子は入口で会費を払うと、すぐに見知った友人の元に近付いた。
向こうも柚子と透子に気付くと手を振った。
「きゃあ、柚子に透子じゃない。久しぶり~!」
「久しぶり」
「っか、どうしたの、柚子! その方に乗ってるかわいいのはなに!?」
友人はすぐに肩に乗っている子鬼に気が付いてテンションを上げる。
「あー、この子たちは子鬼ちゃん。あやかしが作った使役獣……って言っても分からないか」
「あやかしが作った? あやかしって言うと透子の恋人?」
透子が東吉の花嫁になったのは中学の時なので彼女たちは透子のことと勘違いしているようだ。
そう言えば、高校に入って当初は中学の友人たちとも交流があったが、柚子が玲夜の花嫁になる頃には年始の挨拶にメールを送るぐらいの交流しかなくなっていた。
同じ高校ではなかったので、仕方ないことではある。
なので、柚子があやかしの、それも鬼の花嫁になったことは誰も知らないのだ。
「あはは……。えーと」
なんと言ったものかと、口ごもる。
代わって透子が説明を始めた。
「その子たちを作ったのは、私じゃなくて柚子の旦那よ」
「えっ、柚子結婚したの!?」
「うそ!?」
「違う違う。そう言う意味じゃないなくてたとえよ。透子、まぎらわしいこと言わないでよ」
「なに言ってるのよ、大学卒業したら旦那になることに間違いないじゃない」
すると、友人のひとりが柚子の左手の指輪に気が付いて、柚子の手を取りまじまじと見つめる。
「柚子、あんた指輪してるじゃないの!」
「きゃあ、本当だ!」
「高そうな指輪。相手は金持ちね? 紹介しなさい。友人でもいいわ!」
「合コンよー!」
まるで肉食獣のような鋭い眼差しで見られて、柚子は頬を引き攣らせる。
「いや、皆落ち着いて。透子ぉ~」
たまらず柚子は透子に助けを求める。
透子はやれやれというようにスマホを操作したかと思うと、画面を友人たちに見せた。
その画面には玲夜の笑顔の写真。
ただの写真ならいざ知らず、貴重な笑顔の写真などいつ撮ったのやら。
「きゃあ! 誰、その美形は!?」
「すっごい格好いい! 誰それ!?」
「これが柚子の旦那よ」
「はぁ!? 柚子、この裏切り者!」
「自分だけこんなイケメン捕まえて! 少しよこせ」
「そんな無茶な」