それからは特に変わりのない日常を送り、柚子は大学三年生となった。
 桜子も卒業したので、心細さはあったが、それ以上に問題なこともあった。
「う~」
 頭を抱えて唸る柚子を透子は頬杖をつきながら見ていた。
「どうかしたの?」
「透子はインターンとか行かないの?」
「あー、悩んでるのはそのことか。面白そうだけど、にゃん吉がねぇ」
 透子が隣に座る東吉を窺うように視線を向けるが、東吉から返ってきたのはたった一言。
「行かせるわけないだろう」
「だそうよ」
 透子は始めから答えを分かっていたように苦笑する。
「それにしてもインターンね。私たちも大学三年生になったから、そろそろよね。まあ、早い子は二年生ぐらいからしてるけど」
「玲夜は許してくれると思う?」
「逆に聞くけど、若様が許すと思う?」
「……思わない」
 柚子はがっくりと肩を落とした。
 想像しただけでもひと言で切り捨てる玲夜が想像できた。
 実際に、以前大学を卒業後働きたいということを言いだしてから禁止されたバイトも未だに禁止のまま。
 それとなくバイトの再開を願ったが、のらりくらりとかわされている。
 きっと柚子がまだ働く気でいるのを諦めていないことに気付いているからだろう。
「お前まだ働くの諦めてなかったのか」
 東吉は呆れたように柚子を見たが、隣の蛇塚にもまで同じような目で見られてショック受ける。
「だってぇ」
「諦めろ、諦めろ。花嫁を働かせるあやかしなんているわけない」
「にゃん吉君が意地悪する」
 そう言って子鬼たちに泣きつけば、子鬼たちは柚子の代わりに抗議の声を上げる。
「あーい!」
「あいあい!」
 ぺしぺしと東吉を叩く姿は、怒っているのになんともかわいらしい。
「おいっ、こら」
 じゃれる東吉と子鬼たちを放置し、柚子はスマホに載る情報を見る。
 そこには玲夜の会社の情報が載っていた。
 どうやら玲夜の会社でもインターンをやるようで、申し込みたい気持ちが柚子の中に渦巻く。
「玲夜に黙って玲夜の会社のインターンに行ったら怒られるかな?」
「その前に応募の時点で見つかって却下されるんじゃない?」
「くぅ、やっぱり前途多難だ……」
 再び柚子は頭を抱えた。
「ところでさ、柚子に聞いとかないといけないことがあったんだったわ」
「なに?」
「今度、中学の同窓会をやろうって話がきたのよ。ほら、柚子は若様の家に引っ越したし、それと同時に電話も変えたから連絡できなかったみたいで、私のところに連絡が来たのよ。伝えといてくれって、当時の委員長に」
「中学の同窓会かぁ。懐かしいな」
「どうする? 出席する?」
「透子はどうするの?」
「うーん、柚子に聞いてみてからにしようと思って」
 すると、透子が柚子に近付き耳元で囁いた。
「ほら、私たちには地雷があるわけだし」
「地雷?」
「元彼よ。委員長に聞いたら両方来るらしいのよ。お互いバレたら行かしてもらえるか分からないでしょう?」
「それはマズイ。まさかにゃん吉君に言ってないよね?」
「言うわけないでしょ。我が身はかわいいもの。柚子も気を付けるのよ」
「りょ、了解」
 そこでようやく透子は離れた。
「で、それを考慮して行くか行かないか聞こうと思ったのよ」
「うーん。どうしよう。私としては行ってみたいな。中学の友達とも久しぶりに会いたいし」
「そう? 柚子が行くなら私も行こうかな。じゃあ、委員長に参加の連絡しとくけどいい?」
「うん。お願いします」
「柚子は若様にちゃんと了承取っとくようにね」
「うん。まあ、同窓会に行くぐらいなら玲夜も反対はしないと思う」
「くれぐれもあのことは……」
 透子は口の前で人差し指で×を作った。
 あのこととはもちろん元彼のことである。
 分かり合っているふたりは、目を見合わせてこくりと頷いた。
 お互いに元彼と会うと玲夜と東吉に知られるのがマズイのは同じなのである。
 知られたが最後、確実に反対されるだろう。