「シンバ......どうする……?」
顔を俯けたまま言うと、ちょっと怒った声が返ってきた。
「花音はどうなんだよ」
「そ、そりゃ、わたしだって、シンバが人間になって、ずっと一緒にいられたらいいなって思うけど……」
「お前ってこんな時にもそんな性格なのな」
「どういう意味よ!」
「ハッキリしねぇってことだよ。言えよ、俺に。人間になって結婚してくださいって」
顔を上げると、シンバは真顔だった。こっちを見ているターコイズブルーの瞳に、顔の温度が一気に二度は跳ね上がる。
「そんなこと言えるわけないじゃない! シンバの馬鹿!!」
「はーぁ。やっぱり、花音は花音なのな。いいや、俺」
「え......」
それって、どういうこと? わたしに結婚の覚悟ができないなら、シンバはシンバで、小人のままでいいってこと? わたしたち、このまま永遠にお別れしちゃうの……?
泣きたくなりそうな気持ちでシンバを見つめていると、シンバはほんのり頬を染めて、言った。
「花音が言えないなら、俺が言う。いいよ。俺、人間になる」
シンバらしい、きっぱりはっきりした、ものの言い方だった。
「え、じゃあ、つまり、それ、わたしと、けっ......」
「あぁ、俺は花音と結婚するよ。人間になって、花音の夫になって、花音の子どものパパになる」
「そ、そんな。シンバ、もっとよく考えて! 人間になっても、わたしとすぐに一緒にいられるわけじゃないの! 小人としての生活は!? シンバのお父さんともお母さんとも、二度と会えなくなっちゃうんだよ!?」
シンバのお父さんとお母さんからしたら、複雑な問題だろう。
外国人と結婚、どころの話じゃない。
種族を越えた者同士の愛なんだから。スケールが大きすぎてわたしですらついていけない。
「もともと、小人の世界では十八になると独り立ちするんだ。それがちょっと、早まるだけ」
「でも、三年も、わたしと会えないんだよ!?」
「花音は三年経ったら、俺のこと忘れちゃうのかよ」
シンバが唇の端を曲げた。すねている時の、シンバのしゃべり方だ。
「そんなこと、ないけど……」
「俺は花音のこと、何年経ってもずっと好きだぜ。俺、馬鹿だからさ。わかんねーんだよ、友だちと恋人との違いとか、恋と愛との違いとか。ただ、花音のこと、すっげぇ大事で、守りたくて、可愛くて、愛しいんだ。それって、好きってことじゃねぇの?」
心が、温まってゆっくりとほどけていく。
初めて、言われた。
シンバの口から好き、だって。
わたし、ずっとシンバにこう言ってほしかったんだ。
シンバに女の子として見てもらいたかったんだ。
友だちじゃなくて、親友じゃなくて、それ以上を望んでいた。
相手が小人だってわかっていても、止められなかった。
「一度しか言わないから、よく聞いとけ。俺は花音が好きだ。花音が好きだから、俺は人間になりたい」
小人は――いや、シンバのプロポーズは、シンバらしく不器用で、率直だった。
ハートのど真ん中にどストレートで投げられた白球に、嬉しくて涙が一筋落ちる。
「返事は?」
「え」
「ちゃんと言ったんだから、お前もちゃんと返事、しろよ。わかってんのか、お前。俺のほうが、お前の一億倍は恥ずかしいこと言ってんだぞ」
溢れる涙をめちゃくちゃに拭いながら、何度も頷いた。
「わたしも......わたしもシンバが好きだよ。世界中の誰よりも、好き。シンバが誰よりも格好いい男の子に思えて、シンバにずっと守ってほしくて、そしてわたしも今よりもうちょっと強くなって、シンバを支えたい。だからシンバに……人間になってほしい」
少し間があいた後、シンバは机の上に置いたわたしの手の甲にちゅっと口づけた。
「なら、よかった」
涙で濡れた顔で、シンバは少し照れた顔で、二人見合わせて、しばらく笑った。
顔を俯けたまま言うと、ちょっと怒った声が返ってきた。
「花音はどうなんだよ」
「そ、そりゃ、わたしだって、シンバが人間になって、ずっと一緒にいられたらいいなって思うけど……」
「お前ってこんな時にもそんな性格なのな」
「どういう意味よ!」
「ハッキリしねぇってことだよ。言えよ、俺に。人間になって結婚してくださいって」
顔を上げると、シンバは真顔だった。こっちを見ているターコイズブルーの瞳に、顔の温度が一気に二度は跳ね上がる。
「そんなこと言えるわけないじゃない! シンバの馬鹿!!」
「はーぁ。やっぱり、花音は花音なのな。いいや、俺」
「え......」
それって、どういうこと? わたしに結婚の覚悟ができないなら、シンバはシンバで、小人のままでいいってこと? わたしたち、このまま永遠にお別れしちゃうの……?
泣きたくなりそうな気持ちでシンバを見つめていると、シンバはほんのり頬を染めて、言った。
「花音が言えないなら、俺が言う。いいよ。俺、人間になる」
シンバらしい、きっぱりはっきりした、ものの言い方だった。
「え、じゃあ、つまり、それ、わたしと、けっ......」
「あぁ、俺は花音と結婚するよ。人間になって、花音の夫になって、花音の子どものパパになる」
「そ、そんな。シンバ、もっとよく考えて! 人間になっても、わたしとすぐに一緒にいられるわけじゃないの! 小人としての生活は!? シンバのお父さんともお母さんとも、二度と会えなくなっちゃうんだよ!?」
シンバのお父さんとお母さんからしたら、複雑な問題だろう。
外国人と結婚、どころの話じゃない。
種族を越えた者同士の愛なんだから。スケールが大きすぎてわたしですらついていけない。
「もともと、小人の世界では十八になると独り立ちするんだ。それがちょっと、早まるだけ」
「でも、三年も、わたしと会えないんだよ!?」
「花音は三年経ったら、俺のこと忘れちゃうのかよ」
シンバが唇の端を曲げた。すねている時の、シンバのしゃべり方だ。
「そんなこと、ないけど……」
「俺は花音のこと、何年経ってもずっと好きだぜ。俺、馬鹿だからさ。わかんねーんだよ、友だちと恋人との違いとか、恋と愛との違いとか。ただ、花音のこと、すっげぇ大事で、守りたくて、可愛くて、愛しいんだ。それって、好きってことじゃねぇの?」
心が、温まってゆっくりとほどけていく。
初めて、言われた。
シンバの口から好き、だって。
わたし、ずっとシンバにこう言ってほしかったんだ。
シンバに女の子として見てもらいたかったんだ。
友だちじゃなくて、親友じゃなくて、それ以上を望んでいた。
相手が小人だってわかっていても、止められなかった。
「一度しか言わないから、よく聞いとけ。俺は花音が好きだ。花音が好きだから、俺は人間になりたい」
小人は――いや、シンバのプロポーズは、シンバらしく不器用で、率直だった。
ハートのど真ん中にどストレートで投げられた白球に、嬉しくて涙が一筋落ちる。
「返事は?」
「え」
「ちゃんと言ったんだから、お前もちゃんと返事、しろよ。わかってんのか、お前。俺のほうが、お前の一億倍は恥ずかしいこと言ってんだぞ」
溢れる涙をめちゃくちゃに拭いながら、何度も頷いた。
「わたしも......わたしもシンバが好きだよ。世界中の誰よりも、好き。シンバが誰よりも格好いい男の子に思えて、シンバにずっと守ってほしくて、そしてわたしも今よりもうちょっと強くなって、シンバを支えたい。だからシンバに……人間になってほしい」
少し間があいた後、シンバは机の上に置いたわたしの手の甲にちゅっと口づけた。
「なら、よかった」
涙で濡れた顔で、シンバは少し照れた顔で、二人見合わせて、しばらく笑った。



