15センチの恋人

「小人の世界に、代々伝わる魔法なんだよ。満月の夜、月の光を二人で浴びるんだ。庭とか、ベランダとか、二人きりになれる場所で、誰も見つからないようにね。そこで二人で、新鮮な水を聖杯に入れるんだよ」

「聖杯?」

「まぁ、いわゆる、ワイングラスみたいなもので代用してもいいと思うけれど、花音はあの小人にいつも、おちょこで麦茶を持っていってたじゃないか。あれを使ってもいいんじゃないかい?」


 そんなことまでよく見ていたのかと思うと、頬が熱くなる。おばあちゃんは笑っている。ほんと、この人に隠し事はできない。


「聖杯に月の光を浴びせた後、二人の気を、口移しで送るんだ」
「口移し……?」
「なんだい花音、まだやってなかったのかい。その小人と、キスするんだよ」


 し、シンバとキス!? そ、そりゃ、ほっぺたはあったけど……。
 考えただけで恥ずかしいんですけど……。


「花音はウブだねぇ。今どきの女子高生なら、もっと進んでるかと思ってたよ」

「おばあちゃんが逆に、昔の人なのにハイカラ過ぎるんだよ!」

「まぁいいや。そして、ゆっくりキスした後、二人で同時に、その水を飲む。それで、魔法は完了さ」

「ずいぶん簡単だね」

「あぁ、簡単だよ。ただし、代償がある」

「代償……?」


 おばあちゃんが少し眉を下げた。


「その魔法を使ってから、三年間は二人、会えなくなるんだ」
「え」


 人間になったら、シンバとずっと一緒にいられると思ってたのに。
 人間になっても、また離れちゃうの……?


「そんな。そんな、どうして――」

「わからないよ。小人の世界の掟なんだから」

「で、でも嫌だよ、おばあちゃん! シンバーーシンバっていうんだけど、その小人の男の子。シンバが人間になっても、それから三年も会えなくなるなんてーー」

「だから、花音の気持ち次第だねぇ」


 おばあちゃんがまた真面目な口調になる。


「そのシンバくんが、本当に好きなら。三年経っても、会えなくなってもずっと、気持ちが変わらないなら。シンバくんに、人間になってもらってもいいんじゃないかと、おばあちゃんは思うけどねぇ」


 おばあちゃんの言葉には、しっかりと確かな重みがあって、胸の底に大きな石みたいにどすんと落ちてきた。

 わたしは、まだ男の子とちゃんと付き合ったこともないし、友だちと恋人の境目の違いも、恋と愛の違いもわからない。

 でも今わたしに問われているのは、シンバへの気持ちが本物かどうかってことなんだ。