15センチの恋人

十六歳って、なんて脆いんだろう。


 中学の制服を脱ぎ捨てて新しい制服に身を包み、校則の厳しかった中学から比較的自由な校風の今の高校に進んだ時は、たしかに大人になった、という自覚があった。

中学の時には遠かった、誰々と付き合った、誰々とキスした、なんて恋バナも、身近なものになった。勉強だって中学の時とは比較にならないほど難しくなるし、放課後にバイトしている子もいる。

 でも、わたしたちは大人と呼べるほどには、圧倒的に脆すぎる。

 おばあちゃんが、わたしの大事な人が倒れたっていうのに、わたしができることは、救急車を呼んで、電話の案内の声に従い、救急車の中でおばあちゃん
の手を握ってあげることだけだった。お父さんとお母さんの職場には、病院の人から電話してくれた。

 わたしは大事な時だっていうのに二人にラインのひとつもできず、病院の床でじっと自分の足元を見つめているだけだった。

 今、時刻は午前〇時を回ったところ。看護師さんの説明によると、おばあちゃんはしばらく入院が必要な状態らしい。今、お父さんとお母さんが主治医の先生から説明を訊いている。よくわからない大人の話が、廊下に漏れ聞こえてくる。

 ここにシンバがいればいいのに。泣きたくなるのをこらえて、制服のスカートの裾をぎゅっと握った。


「花音、もう帰るわよ」


 廊下に出てきたお母さんが声をかける。化粧で彩った顔がくたびれていた。


「先生は、なんだって?」

「二回目の脳出血。脳出血はね、繰り返しやすい病気なの。それにおばあちゃん、認知も始まってるんですって。仕方ないわよね、こればっかりは。病気なんだもの」

「仕方なくなんか、ないよ」


 震える声で言うと、お母さんが驚いた顔をした。


「おばあちゃんが、あんなに苦しい思いをしているのに。わたし、助けてあげられなかった。なんにもできなかった。大事な家族なのに、病気だから仕方ないなんて。そんなふうに、わたしには思えない」

「花音」


 お父さんがそっと、わたしの頭の上に手を置いた。


「花音は優しいな。おばあちゃんのこと、大切に思ってくれて」

「――当たり前じゃない。おばあちゃんなんだもの」

「わかるぞ。わかるそすごく、その気持ち。でもな」


 お父さんの目尻には、涙で濡れた痕があった。


「でも、大事な人を思うには、まずは自分を大事にしなきゃいけないんだ。とりあえず今日はもう遅いし、さっさと帰って寝るぞ。明日は花音、無理して学校に行かなくてもいいからな」

 泣きそうな顔で無理に笑って、頷いた。