15センチの恋人

それは、里はまだ暖かいけれど、山には冬のひんやりした風が吹き始める秋が深まった頃だった。

 バスから降りて、今日はシンバとどんな話をしようかなと半ばスキップになりがちな足取りで家を目指す。シンバの大好きなお菓子も買ったし。

学校で茉奈としゃべるのも大事な時間だけど、シンバって、やっぱり特別。だって、小人で男の子の親友がいる高校生の女の子なんて、きっと世界中捜したってわたししかいない。


「ただいま」


 玄関を開け、耳が遠くなってしまったおばあちゃんのために大きめの声で言う。返事はない。たぶん、リビングのあのお気に入りの場所で微睡んでいるんだろうな。今日は午前中に、入浴介助があったきりだし。

 そう思ってリビングに入った時、わたしはカバンを落とした。どさっ、という大きな音がした。

 おばあちゃんの車椅子が横倒しになって、フローリングの上におばあちゃんの痩せた身体があった。生きているのか死んでいるのかもわからない。ただ血を吐いてはいなかったので、それだけのことに妙に安堵してしまう。


「おばあちゃん! おばあちゃん!!」


 わたしは泣きながら、叫びながら、おばあちゃんを揺り動かした。おばあちゃんは気を失ってしまったのか、返事をしない。

 パニックになりながら、スマホで救急車を呼んだ。