最近、教室だと里美と鈴子にじろじろ見られるのが嫌で、お昼はいつも茉奈と一緒に中庭で食べている。赤や茶色に色づいた桜紅葉が、くるくる回りながら落ちてくる。
「それって絶対、付き合ってるってことだって!!」
お弁当を食べつつ、茉奈がきっぱり断言する。小動物系ロリキャラでモテ路線を狙ってみたら? 的なことを言ったせいか、今日の茉奈は前髪を猫のキャラクターのクリップで留めている。ニキビひとつないつやつやのおでこが羨ましい。
「そう……なのかな」
「そうでしょ!? だって毎日ラインして、デートとかするんでしょ? 付き合ってるよ、それ!!」
「そう……なのかぁ」
わたし、敦彦くんからちゃんと付き合ってほしいって言ってもらえてない。きちんと告白されてない。それなのに、こんなに簡単にデートしちゃっていいものなのかなぁ? 軽い女だって思われてない?
「茉奈は、友だちと恋人との境目ってなんだと思う?」
うーん、と茉奈が首をひねる。
「そりゃ、やっぱりキスとかそういうことするっていうのが境界線なんじゃないの?」
「キ、キス、ね……」
そういえば一度、シンバにほっぺたにキスされたことがあったっけ。あれは友だちのキスだ、ってシンバは言ってたけど。あの時は、不覚にもシンバにすごいときめいちゃったなぁ……。
「あー、あたしも彼氏欲しくなってきた!」
茉奈がお弁当を膝の上に広げたまま、頭を抱える。
「茉奈、高校生のうちは彼氏作らないんじゃなかったの? そもそもわたしたち、彼氏いない同盟なんじゃ……」
「えー、だって、寂しいじゃん! 里美も鈴子もリア充で、花音にまで彼氏できたら、あたしだけ一人ぼっち! あたしだって青春、したいよー!」
「恋愛だけが青春じゃないと思うけどなぁ……」
「まぁ、そうだけどね」
茉奈がぽつん、と言う。
「学生の本分は、勉強だもんね。花音、これ、誰にも言わないって約束してくれる?」
「え、何なに……」
「あたしの夢、お医者さんになることなんだ」
ちょっと照れ臭そうに茉奈が言った。わたしは目を見開く。
「医学部って、理系に強くないと進めないでしょ? その割にはあたし、理系科目の成績、悪いから。親と相談して、週二回くらい家庭教師に来てもらおうかって話してる」
「そう、なんだ……」
「夢があるなら、勉強も頑張らなきゃって気になるよね。花音は将来の夢、なんかないの?」
考え込みながら、空を見上げる。飛行機が一機、遠くの秋空を横切っていく。
子どもの頃は、いろんなものになりたかった。ケーキ屋さんとか、お花屋さんとか、アイドルとか。でも小学校の卒業文集には迷いに迷って、「国語の先生」と書いた。本を読むのは好きだし、でも作家になれるほど文章は上手くない。小学六年生にしては、すごくませた、現実的な夢だと思う。
「特にないけれど……強いて言えば、うちのお母さんみたいになりたいかな」
「どういうこと?」
茉奈がちょこん、と小首を傾げる。
「うちのお母さん、偉いから。仕事しながらおばあちゃんの介護して、家のこともして。わたしも、将来ああいう女の人になれたらいいなって思う」
「なるほど。花音の夢は、しっかりした大人の女の人になることか」
「まぁ……そういうことになるのかな。普通のことが普通にできる、ちゃんとした人になりたい」
「なんか、花音らしいね」
茉奈が卵焼きのカスがついた唇でにっ、と笑った。
「それって絶対、付き合ってるってことだって!!」
お弁当を食べつつ、茉奈がきっぱり断言する。小動物系ロリキャラでモテ路線を狙ってみたら? 的なことを言ったせいか、今日の茉奈は前髪を猫のキャラクターのクリップで留めている。ニキビひとつないつやつやのおでこが羨ましい。
「そう……なのかな」
「そうでしょ!? だって毎日ラインして、デートとかするんでしょ? 付き合ってるよ、それ!!」
「そう……なのかぁ」
わたし、敦彦くんからちゃんと付き合ってほしいって言ってもらえてない。きちんと告白されてない。それなのに、こんなに簡単にデートしちゃっていいものなのかなぁ? 軽い女だって思われてない?
「茉奈は、友だちと恋人との境目ってなんだと思う?」
うーん、と茉奈が首をひねる。
「そりゃ、やっぱりキスとかそういうことするっていうのが境界線なんじゃないの?」
「キ、キス、ね……」
そういえば一度、シンバにほっぺたにキスされたことがあったっけ。あれは友だちのキスだ、ってシンバは言ってたけど。あの時は、不覚にもシンバにすごいときめいちゃったなぁ……。
「あー、あたしも彼氏欲しくなってきた!」
茉奈がお弁当を膝の上に広げたまま、頭を抱える。
「茉奈、高校生のうちは彼氏作らないんじゃなかったの? そもそもわたしたち、彼氏いない同盟なんじゃ……」
「えー、だって、寂しいじゃん! 里美も鈴子もリア充で、花音にまで彼氏できたら、あたしだけ一人ぼっち! あたしだって青春、したいよー!」
「恋愛だけが青春じゃないと思うけどなぁ……」
「まぁ、そうだけどね」
茉奈がぽつん、と言う。
「学生の本分は、勉強だもんね。花音、これ、誰にも言わないって約束してくれる?」
「え、何なに……」
「あたしの夢、お医者さんになることなんだ」
ちょっと照れ臭そうに茉奈が言った。わたしは目を見開く。
「医学部って、理系に強くないと進めないでしょ? その割にはあたし、理系科目の成績、悪いから。親と相談して、週二回くらい家庭教師に来てもらおうかって話してる」
「そう、なんだ……」
「夢があるなら、勉強も頑張らなきゃって気になるよね。花音は将来の夢、なんかないの?」
考え込みながら、空を見上げる。飛行機が一機、遠くの秋空を横切っていく。
子どもの頃は、いろんなものになりたかった。ケーキ屋さんとか、お花屋さんとか、アイドルとか。でも小学校の卒業文集には迷いに迷って、「国語の先生」と書いた。本を読むのは好きだし、でも作家になれるほど文章は上手くない。小学六年生にしては、すごくませた、現実的な夢だと思う。
「特にないけれど……強いて言えば、うちのお母さんみたいになりたいかな」
「どういうこと?」
茉奈がちょこん、と小首を傾げる。
「うちのお母さん、偉いから。仕事しながらおばあちゃんの介護して、家のこともして。わたしも、将来ああいう女の人になれたらいいなって思う」
「なるほど。花音の夢は、しっかりした大人の女の人になることか」
「まぁ……そういうことになるのかな。普通のことが普通にできる、ちゃんとした人になりたい」
「なんか、花音らしいね」
茉奈が卵焼きのカスがついた唇でにっ、と笑った。



