カフェで将来の夢とか、友だちの話とか、他愛もないことをしゃべっていたら、あっという間に外が暗くなってきた。あんまり遅いと親が心配するでしょ、と敦彦くんが言ったので、十八時には別れた。わたしは別に門限とかはないけれど、連絡もしないで遅くなると怒られる。
「なんであんなことしたのよ」
部屋に入ってシンバと二人きりになると、開口一番、そう言った。
シンバは机の端っこであぐらをかいている。
「なんでも何も、別に恋人同士でもないのに女と手ぇ繋ぐとか、おかしいだろ! せめて手、繋いでいい? ぐらい言えよ!」
「え、でも……そういう雰囲気になったら、手を繋いだりするものなんじゃないの?」
「馬鹿かよお前。簡単に女に触る男なんて、ろくなもんじゃねぇ」
「そんなことないよ、敦彦くん優しいし、デートプランとかちゃんと考えてくれたし……!」
「ハッキリ言う。あいつとはもう二度と会うな」
「そんなのおかしいよ! 帰り道だってラインしてたのに!」
はぁ、とシンバが大きなため息をつく。
「ラインラインって、お前はいっつもそればっかたな。ラインで友だちいじめて、ラインで男作って」
「何よそのおじいちゃんみたいな考え方!」
「花音は単純なんだよ、仲が良いからって気を遣ったり、ちょっと優しくされたからって手握らせたり。ああいう時は振り払うもんだろ!」
「私がどんな男の子と手を繋ごうが私の自由でしょ!!」
本気で怒ったのは、いつ以来だろう。一人っ子だけど別にわがままじゃないし、小さい頃に欲しいものを買ってもらえなくて癇癪を起こしたことはない(らしい)。友だち付き合いだって、「おとなしい子」のポジションに立つことでクリアしてきた。わたしは何かにつけて、自分の意見を言わないタイプだ。
でも、意見を言う権利があることは知ってる。
「シンバはわたしの友だちなんでしょ!? 友だちだったらその子が男の子とデートしたら応援してあげるものなんだよ!! なのに、邪魔ばっかりして!!」
「悪い男に引っかかるなって言ってるだけじゃねぇかよ!!」
シンバが語気を荒げ、大きな目を尖らせる。
「お前、あいつになめられてるってわかんねぇのかよ。男と付き合ったことない女だから、手のひとつでも握ればコロッといくんじゃないかって。ああいうのが遊びで女と付き合って泣かせるタイプなんだ! 親にそういうことも教わってねぇのか!? 花音がこんな軽い女だとは思わなかった」
軽い女、というひと言にグサッときた。心臓の真ん中にずぶとい針が突き刺さる。
わたしは断じて軽い女なんかじゃない! 人を好きになることにも、好きになったその後のことにも慎重だ。今まで好きになった男の子は、三人くらい。いつも見てるだけでときめいていた。でも自分から声をかけたことなんてなかった。話せるだけで、ドキドキしてた。女の子ってそういうものなのに、なんでシンバにはそれがわからないの?
「シンバこそ、親に恋愛の教育を受けてないよ」
シンバがムッとした。
「女心がまるでわかってないシンバに、今後一切、敦彦くんの話はしない。というかもう、シンバと口ききたくない」
冬のように空気が凍り付く。シンバはわたしをまっすぐ見て、言った。
「花音がそう言うなら、それでいいよ。でも」
立ち上がってくるりと踵を返す。天袋のほうに向かって歩き出す。
「あいつに押し倒されても、俺は責任とれねぇからな」
その夜を境に、シンバはわたしの前から消えた。
「なんであんなことしたのよ」
部屋に入ってシンバと二人きりになると、開口一番、そう言った。
シンバは机の端っこであぐらをかいている。
「なんでも何も、別に恋人同士でもないのに女と手ぇ繋ぐとか、おかしいだろ! せめて手、繋いでいい? ぐらい言えよ!」
「え、でも……そういう雰囲気になったら、手を繋いだりするものなんじゃないの?」
「馬鹿かよお前。簡単に女に触る男なんて、ろくなもんじゃねぇ」
「そんなことないよ、敦彦くん優しいし、デートプランとかちゃんと考えてくれたし……!」
「ハッキリ言う。あいつとはもう二度と会うな」
「そんなのおかしいよ! 帰り道だってラインしてたのに!」
はぁ、とシンバが大きなため息をつく。
「ラインラインって、お前はいっつもそればっかたな。ラインで友だちいじめて、ラインで男作って」
「何よそのおじいちゃんみたいな考え方!」
「花音は単純なんだよ、仲が良いからって気を遣ったり、ちょっと優しくされたからって手握らせたり。ああいう時は振り払うもんだろ!」
「私がどんな男の子と手を繋ごうが私の自由でしょ!!」
本気で怒ったのは、いつ以来だろう。一人っ子だけど別にわがままじゃないし、小さい頃に欲しいものを買ってもらえなくて癇癪を起こしたことはない(らしい)。友だち付き合いだって、「おとなしい子」のポジションに立つことでクリアしてきた。わたしは何かにつけて、自分の意見を言わないタイプだ。
でも、意見を言う権利があることは知ってる。
「シンバはわたしの友だちなんでしょ!? 友だちだったらその子が男の子とデートしたら応援してあげるものなんだよ!! なのに、邪魔ばっかりして!!」
「悪い男に引っかかるなって言ってるだけじゃねぇかよ!!」
シンバが語気を荒げ、大きな目を尖らせる。
「お前、あいつになめられてるってわかんねぇのかよ。男と付き合ったことない女だから、手のひとつでも握ればコロッといくんじゃないかって。ああいうのが遊びで女と付き合って泣かせるタイプなんだ! 親にそういうことも教わってねぇのか!? 花音がこんな軽い女だとは思わなかった」
軽い女、というひと言にグサッときた。心臓の真ん中にずぶとい針が突き刺さる。
わたしは断じて軽い女なんかじゃない! 人を好きになることにも、好きになったその後のことにも慎重だ。今まで好きになった男の子は、三人くらい。いつも見てるだけでときめいていた。でも自分から声をかけたことなんてなかった。話せるだけで、ドキドキしてた。女の子ってそういうものなのに、なんでシンバにはそれがわからないの?
「シンバこそ、親に恋愛の教育を受けてないよ」
シンバがムッとした。
「女心がまるでわかってないシンバに、今後一切、敦彦くんの話はしない。というかもう、シンバと口ききたくない」
冬のように空気が凍り付く。シンバはわたしをまっすぐ見て、言った。
「花音がそう言うなら、それでいいよ。でも」
立ち上がってくるりと踵を返す。天袋のほうに向かって歩き出す。
「あいつに押し倒されても、俺は責任とれねぇからな」
その夜を境に、シンバはわたしの前から消えた。



