敦彦くんのラインを既読スルーしたまま一人で頭の中で考えをこねくり回している間に眠くなり、気が付けばアラームが鳴っていた。六時間は寝たはずなのに、あんまり寝た気がしない。身体を起こしても、頭ががんがんしている。
心ここにあらずのまま洗面台に向かい、朝の身支度を整えて朝食を食べる。食欲はあまりなかった。カリカリに焼いたトーストも、ブルーベリージャムを入れたヨーグルトも、甘過ぎて胃もたれを起こしそう。夕べの残り物の回鍋肉すら、キャベツがやたら固くてえずきそうになった。
いつも通りバスに乗り、窓の外を素通りしていく景色を眺める。山間部は早くも紅葉が始まっていた。桜の木が赤や茶色に染まって、春は薄桃色の花を咲かせていた桜たちが見事な桜紅葉を見せている。今日の天気はうす曇り。太陽を覆い隠したグレーの空は、今にも雨粒を生み出しそうだ。予報では降水確率は三十パーセントだったっけ。微妙な数字だ。
わたしがこれから敦彦くんを好きになる確率は、何パーセントくらいなんだろう。
いつもの停留所で、敦彦くんは乗ってきた。わたしを見て、いつものように右手を上げ、にこっとおはようを言って隣に座る。既読スルーされた事なんてなんとも思っていないようなその態度に、拍子抜けしてしまう。
「おはよう」
「おはよう……」
「昨日は、ごめんね」
「え?」
「いきなりあんな事いって、花音ちゃんを困らせたのかと思って……反省してる」
真摯な声で、敦彦くんは言った。
この男の子は本当に、わたしのことを好きでいてくれているんだ……
「わたしこそ、ごめん。男の子に遊びに行こうなんて誘われたの初めてだから、どう返していいのかわからなくて……」
「そんなに、重く考えることないんだよ。僕たち、友だちでしょう?」
「そうだけど……」
「友だちだったら、一緒に映画を観に行ってもいいと思うんだ」
やわらかな敦彦くんの笑顔が、悩んで凝り固まった心をほぐしてくれる。
そうだ、一緒に出かけたからって、別にキスをするわけじゃない。手を繋ぐわけでもない。あくまでこれは、ただ映画を観に行くだけ。高校生同士の健全なデートなんだから、そんなに重く捉える必要はない。
里美や鈴子たちが当たり前にやってた事なんだから、同じ高校一年生のわたしにもできるはずだ。
「いいよ。交換ウソ日記、観に行こう」
そう言うと、敦彦くんの顔いっぱいに笑みが広がった。
「いいの!? 本当に僕と、一緒に行ってくれるの?」
「うん。観たい映画だったし」
「やったぁ。花音ちゃん、いつ空いてる?」
「今度の日曜日なら」
「わかった。デートプラン考えておくね」
敦彦くんに近い左肩が、ほんのり熱くなった。
自分のことを好きでいて、自分を特別だと思ってくれる男の子。
そんな人と一緒にいる時間は、素晴らしいものだ。
心ここにあらずのまま洗面台に向かい、朝の身支度を整えて朝食を食べる。食欲はあまりなかった。カリカリに焼いたトーストも、ブルーベリージャムを入れたヨーグルトも、甘過ぎて胃もたれを起こしそう。夕べの残り物の回鍋肉すら、キャベツがやたら固くてえずきそうになった。
いつも通りバスに乗り、窓の外を素通りしていく景色を眺める。山間部は早くも紅葉が始まっていた。桜の木が赤や茶色に染まって、春は薄桃色の花を咲かせていた桜たちが見事な桜紅葉を見せている。今日の天気はうす曇り。太陽を覆い隠したグレーの空は、今にも雨粒を生み出しそうだ。予報では降水確率は三十パーセントだったっけ。微妙な数字だ。
わたしがこれから敦彦くんを好きになる確率は、何パーセントくらいなんだろう。
いつもの停留所で、敦彦くんは乗ってきた。わたしを見て、いつものように右手を上げ、にこっとおはようを言って隣に座る。既読スルーされた事なんてなんとも思っていないようなその態度に、拍子抜けしてしまう。
「おはよう」
「おはよう……」
「昨日は、ごめんね」
「え?」
「いきなりあんな事いって、花音ちゃんを困らせたのかと思って……反省してる」
真摯な声で、敦彦くんは言った。
この男の子は本当に、わたしのことを好きでいてくれているんだ……
「わたしこそ、ごめん。男の子に遊びに行こうなんて誘われたの初めてだから、どう返していいのかわからなくて……」
「そんなに、重く考えることないんだよ。僕たち、友だちでしょう?」
「そうだけど……」
「友だちだったら、一緒に映画を観に行ってもいいと思うんだ」
やわらかな敦彦くんの笑顔が、悩んで凝り固まった心をほぐしてくれる。
そうだ、一緒に出かけたからって、別にキスをするわけじゃない。手を繋ぐわけでもない。あくまでこれは、ただ映画を観に行くだけ。高校生同士の健全なデートなんだから、そんなに重く捉える必要はない。
里美や鈴子たちが当たり前にやってた事なんだから、同じ高校一年生のわたしにもできるはずだ。
「いいよ。交換ウソ日記、観に行こう」
そう言うと、敦彦くんの顔いっぱいに笑みが広がった。
「いいの!? 本当に僕と、一緒に行ってくれるの?」
「うん。観たい映画だったし」
「やったぁ。花音ちゃん、いつ空いてる?」
「今度の日曜日なら」
「わかった。デートプラン考えておくね」
敦彦くんに近い左肩が、ほんのり熱くなった。
自分のことを好きでいて、自分を特別だと思ってくれる男の子。
そんな人と一緒にいる時間は、素晴らしいものだ。



