第七章

 十月になって、引っ越した山間部と今まで住んでいた町内の辺りが、気温差が大きいことに気付いた。


 このへんには、朝晩は季節を先取りしたような冷たい風が吹くから、朝食時の飲み物もホットミルクの方がいい。冷たいミルクを飲むと、バスを待っている間にお腹がごろごろしてくる。


 制服も、冬服になった。わたしが通う高校のブレザーは紺色のシンプルなデザインだけど、スカートが赤のチェックだから結構可愛い。衣替えをしブレザーとスカートを最初に見せた時、シンバは「可愛いじゃん」と褒めてくれた。男の子に可愛いなんて言われるのは初めてだから、ちょっと恥ずかしかったけど。


 今日も私はバス停で一人、バスを待つ。少し遠くで、キジバトがぼ、ぼと鳴く声がしている。


 いつものようにバスに乗り、ほとんど定位置になってしまった奥の席へ。学校に着くまでまだ時間があるから、夕べやった宿題の見直しをしていた。もうすぐ、テストがある。少しでも勉強しておかないと、お母さんに「勉強しないでスマホばっかり見てたんでしょう!」って怒られちゃうんだもの、勉強はしっかりやらなきゃ。


 数学の計算問題が合っているかどうかチェックしていると、不意打ちで声が投げられた。


「すみません」
 若い男の子の声。反射的に顔を上げると、真っ黒い髪に黒縁の眼鏡をした、いかにも優等生って感じの男の子がいた。この辺りでは有名な、私立の男子校の制服を着ている。


「これ、読んでもらえますか」
 渡されたのは、長方形の白い封筒。右下に紅葉の絵があしらわれている以外は飾り気のない、質素なデザインだった。


「えっと……あの」
 どういうことかわからないわたしに、男の子はほんのり頬を赤くして言う。
「ずっと、あなたを見ていた。あなたに、読んでほしいんです」


「……はぁ」
「電話番号も書いてあります。よかったら電話、下さい」
「……はぁ」


 えっと……これって、もしかして、ラブレター??
 唐突過ぎる展開に、思考が追い付いていかない。
 でもこの男の子、どこかで見たことあるんだよなぁ……


 男の子はひとつ丁寧なお辞儀をして、前の方の席に戻って行った。どうやらそこが、彼の定位置らしい。
 もしかして、わたしとあの人は、毎日ずっと同じバスに乗っていたの?


 バスの中で出会って好きになってラブレターをもらうなんて、まるで少女漫画みたい……
 遅れて、心臓がドキドキと甘い鼓動を奏で始める。