その夜、わたしもグループラインから外された。もともと二対二で対立しがちだった仲良しグループは、完全に解散した。今頃、里美と鈴子はわたしの悪口で盛り上がっているだろう。

 なんでだろう。あんなに人から嫌われるのが怖かったのに、今はすっきりした気持ちだ。里美と鈴子に一日じゅうずっと冷たい目で睨まれても、わたしはびくともしなかった。むしろ、自分はいいことをしたんだ、という清々しい感情で、胸がほかほかしていた。

 友だちに流されてばっかりじゃなくて、付き合う相手を選ぶことも時と場合によっては大切なんだ。


「花音、何やってんだ?」


 机の上で宿題を広げたまま、スマホをいじっていると、背後からシンバに声をかけられる。シンバは小動物のように素早くこちらに駆けてきて、ぴょんとテーブルの上に飛び乗った。

 乗馬服のような長いズボンで覆われているけれど、きっとしなやかな脚をしているんだろうな、シンバって。


「いらないグループライン、ブロックしてるの」
「グループラインって、友だちでやってたやつか?」
「そう。里美と鈴子にハブられちゃったから。今は、茉奈とラインで話してる」
「良かったな」

 シンバがにいっ、と白い歯を見せて笑う。この笑顔が、わたしは大好きだ。


「里美と鈴子には嫌われちゃったけど、これでいいんだ。茉奈と本当の友だちになれた気がする。これで、茉奈を一人ぼっちにしなくてすむ」

「えらいな、お前。ちゃんと勇気出せたじゃん。見直したぜ」

「ありがとう。シンバのお陰だよ、シンバが、わたしの背中を押してくれたから。シンバがいなかったら、勇気、出せなかったと思う」


 そう言うとシンバは何度か目を瞬かせた後、ぴょんとわたしの肩にのり、何をするかと思ったら、頬にキスをしてきた。高校一年生になってもファーストキスさえまだなわたしは、心臓が引っくり返るかと思った。


「何するのよ! シンバ!」
「今のは、友だちのキス。花音が、勇気出せたご褒美だ」


 得意そうに言うシンバだけど、胸がまだばくばくいっている。


「花音と友だちになれて、本当に良かったよ。正直、最近のお前は好きじゃなかった。嫌なことから逃げて、一人でジメジメ落ち込んで」

「……」

「でも今日、花音のこと改めて好きになった。こういう骨のある奴が友だちだって思うと、頼もしい」


 シンバの言葉はいつもまっすぐで嘘がないから、心の奥のデリケートな部分までしっかり届く。

 シンバは男の子だけど、小人だけど、まぎれもなくわたしの一番の親友なんだ。


「わたしも……シンバと友だちになれて良かった」


 ドキドキする心臓を抑え込んで勇気を出してそう言うと、シンバはキスしたあたりの頬を小さくてあったかい手で何度も撫でてくれた。