翌日、いつもより気合を入れて髪の毛をブローした。

 眉毛が隠れる長さの前髪まできれいに巻いて、鏡の中の自分と向き合う。これで完了だ。

 朝ご飯をお腹いっぱい食べてバスに揺られ、登校する。教室に入ると、いつものように里美と鈴子が手を振ってくる。


「おはよー! 花音―!」


 里美の元気溌剌な声を無視して、わたしはまっすぐ一人で自分の机に座り、スマホをいじっている茉奈の前に向かった。とっくに決意はしたはずなのに、心臓がどきどき、身体の真ん中で駆け足をしていた。

 それは、とっても気持ち良い鼓動だった。


「おはよう、茉奈」


 声をかけると、茉奈がびっくりした顔でわたしを見る。


「花音……?」
「わたしもう、茉奈のこと無視しない」
 決意を込めた声に、茉奈が目を広げる。


「もう、嫌なんだ。茉奈をグループ決める授業でハブるのも、里美たちと一緒になって茉奈の悪口言うのも……わたし、茉奈の友だちなのに」
「花音……」
「忘れたの? わたしたち、彼氏いない同盟じゃない」


 そう言って、口元を持ち上げた。遠くで里美たちがずっとわたしたちの方を見ているのには気付いてたけど、もうどうにでもなれ、と思った。
 わたしはうわべだけの友だちじゃなくて、本当の友だちが欲しい。
 シンバだけじゃなくて、茉奈とも親友になりたい。


「ありがとう……花音」


 茉奈の声は震えていた。大きな瞳から、ぽろぽろ涙が零れだす。
 マスカラもアイラインもぐじゃぐじゃにして、茉奈は泣いた。


「あたし、花音にずっとそう言ってほしかったのかもしれない……花音が里美たちと一緒にいるの見てて、なんであたしについてくれなかったんだろうって、そればっかり考えて……」

「ごめん……」

「うん、いいの……あたしも、強情だったんだ。花音に、もっと早く頼ればよかった。花音が優しいってことは、わかってたのにね……」


 ごしごし、乱暴に目元を拭う茉奈。カバンからティッシュを取り出して差し出すと、茉奈は素直にそれを使って顔を拭いた。


「花音、本当にありがとう。今初めて、花音と友だちになれた気がする」

「わたしもだよ」

「これからは、二人でいっぱい話しようね。いろんなとこ行こうね。美味しいもの、いっぱい食べようね」

「うん」


 まだ赤い目で、茉奈が笑った。