その晩、茉奈はほんとにグループラインから外された。次々、里美と鈴子からのラインが届く。


『ウザいのがいなくなってスッキリしたー!』
『これでうちら、三人の友情は本物だね』
『これからは三人グループでー!』


 茉奈がいなくなったことを心から喜んでいる言葉たちに、どう返したらいいのかわからない。『これからもずっと友だちでいてね』――ようやく振り絞った十五文字に、胸がキリキリと音を立てる。


「どうしたんだよ、シケた面して」
 気が付くと、枕元にシンバが立っていた。


「いつからいたの?」
「ずっと前からだよ。天袋のところから、花音がぼけっとしてんのずっと見てた」
「そう……」


 わたしはスマホを置き、シンバを見る。シンバの外国人みたいに透き通ったターコイズブルーの瞳が、わたしの瞳とまっすぐ重なる。


「なんかあったのか?」
「実は……」


 それでわたしは、今日学校で起こったことをシンバに話した。シンバは枕の横にちょこんと三角座りしてじっと聞いてくれてたけれど、話し終えるとずばりと言う。


「そんなの、花音が悪ィじゃん」
「わかってるよ……」
「女同士の付き合いが難しいとかなんとかよく言ってるけど、やってること最悪だぞ。その、茉奈って子を裏切ったんじゃん」
「そう、だけど……」
「お前って、そういうとこほんとイライラするよな」


 傷口に塩を塗られたような気持ちになった。まっすぐなシンバの言葉が、痛い。


「こんなの間違ってる、やめよう、って里美と鈴子って奴に言ってやりゃあいいだけの話じゃんか。なんでそれができねぇんだよ」
「だって! そんなことしたら、里美と鈴子に嫌われる……」
「嫌われないために、無理やり友だちやってるよりいいだろ」
「わかんないよ! シンバには!!」


 つい、声が大きくなった。シンバが目を広げる。一階でまだテレビを見ている両親とおばあちゃんに聞こえていないか気にした後、わたしはぼそぼそと言葉を継ぐ。


「シンバはこの家で、お父さんとお母さんとずっと暮らしてきて、一人っ子で……友だちなんて、できたことないんでしょ? 同い年頃の友だちがどれだけ大切なものか、シンバには絶対わからない」


 シンバが俯いた。そして、ぽつりぽつりと語り始めた。


「たしかに俺には、花音の気持ちはわかんねぇ。でも、そんなに大切なものなのに、最低なことして、めそめそしてるお前の気持ちもわかんねぇ。友だちが大切なら、茉奈って子を庇いたいなら、行動しろよ」
「……」
「今日は、帰る」


 シンバはくるんと背を向けて、押し入れの天袋の方に向かって歩き出した。
 その小さな背中を、わたしは黙って見送っていた。開け放たれた窓から、秋の初めの冷たい夜風が入ってきて、カーテンをふわりと揺らした。