第五章
シンバはあの日から、学校に行きたいとは言わなくなった。
ダサいわたしの姿を、これ以上見たくなかったんだと思う。
それでもわたしは毎朝、制服を着てカラコンをつけて髪の毛をブローして薄くメイクして学校に行く。
「たっちゃんが、最近ラインの返事遅いんだよね。これって倦怠期ってやつなのかなぁ」
鈴子が神妙な顔で言う。里美がいつものようにテンション高めに答える。
「そういう時は、今何してるー? とか、入れればいいんだよー!」
「えー、でもこの前ポップティーンの特集に、今何してるー? とかのラインはNGって書いてあった」
「雑誌なんて本当のこと書かないってー! たっちゃんが好きなら、たっちゃんを信じなよー!」
「倦怠期じゃなくって、それって別の危機なんじゃない?」
茉奈が冷静な声で言って、二人がしんと固まる。
「他に好きな女でもできたかもね」
「ちょっと、やめてよ茉奈! それをいちばん心配してるのに!」
「そうだよ茉奈―! 鈴子の気持ち、ちゃんと考えてあげてー!」
「……ごめん」
茉奈が掠れた声で言った。張りつめたムードに、わたしはどうしていいのかわからない。
「トイレ行きたくなってきた」
茉奈がツインテールを揺らし、逃げるようにして教室を出て行く。途端に里美がまくしたてる。
「茉奈ってさ、うちらのこと僻み過ぎだよねー?」
「ね。彼氏いないからって、あんな冷たいこと言うことないじゃん」
「茉奈ってブスだよね。横顔真っ平で、唇がやたら分厚いしー!」
「スケベ顔。ああいう女が、意外と男にだらしないんだよ。大人になったら誰とでも寝てそう」
「わかるー!」
茉奈の悪口を言う里美と鈴子に対して、どんな反応をしていいのかわからない。そんなことないよ、茉奈はいい子だよ、なんてわたしの口から言えない。
なんでわたしは、こんな時に茉奈を庇えないんだろう。
シンバのように、ストレートに本音を言えないんだろう。
「ねぇこれから、グループラインから茉奈のこと外しちゃわない?」
鈴子がにやりと笑う。その悪魔の笑みに心臓が凍り付く。
「いいねー! 外そ! 外そ! もう、茉奈としゃべりたくないもんー!」
「花音もいいでしょ?」
鈴子に言われ、一瞬固まる。数秒の沈黙の後、首を縦に振る。
「うん……」
「よかったー! 花音が味方してくくれて! てっきり、花音は茉奈の味方すると思ってたよー! 花音、やたらと茉奈と仲良いからさー!」
「じゃ、決まり。これで茉奈はハブ」
「いつやるー?」
「今夜!」
盛り上がる二人の前で、「こんなことしちゃ駄目だよ」のひと言が言えない自分を恥じていた。
小学校の時も中学校の時も、仲良しグループでこんなことはいくらでもあった。でもわたしは友だちが間違ったことをしていても、それは駄目だよ、なんて言えない。
シンバはあの日から、学校に行きたいとは言わなくなった。
ダサいわたしの姿を、これ以上見たくなかったんだと思う。
それでもわたしは毎朝、制服を着てカラコンをつけて髪の毛をブローして薄くメイクして学校に行く。
「たっちゃんが、最近ラインの返事遅いんだよね。これって倦怠期ってやつなのかなぁ」
鈴子が神妙な顔で言う。里美がいつものようにテンション高めに答える。
「そういう時は、今何してるー? とか、入れればいいんだよー!」
「えー、でもこの前ポップティーンの特集に、今何してるー? とかのラインはNGって書いてあった」
「雑誌なんて本当のこと書かないってー! たっちゃんが好きなら、たっちゃんを信じなよー!」
「倦怠期じゃなくって、それって別の危機なんじゃない?」
茉奈が冷静な声で言って、二人がしんと固まる。
「他に好きな女でもできたかもね」
「ちょっと、やめてよ茉奈! それをいちばん心配してるのに!」
「そうだよ茉奈―! 鈴子の気持ち、ちゃんと考えてあげてー!」
「……ごめん」
茉奈が掠れた声で言った。張りつめたムードに、わたしはどうしていいのかわからない。
「トイレ行きたくなってきた」
茉奈がツインテールを揺らし、逃げるようにして教室を出て行く。途端に里美がまくしたてる。
「茉奈ってさ、うちらのこと僻み過ぎだよねー?」
「ね。彼氏いないからって、あんな冷たいこと言うことないじゃん」
「茉奈ってブスだよね。横顔真っ平で、唇がやたら分厚いしー!」
「スケベ顔。ああいう女が、意外と男にだらしないんだよ。大人になったら誰とでも寝てそう」
「わかるー!」
茉奈の悪口を言う里美と鈴子に対して、どんな反応をしていいのかわからない。そんなことないよ、茉奈はいい子だよ、なんてわたしの口から言えない。
なんでわたしは、こんな時に茉奈を庇えないんだろう。
シンバのように、ストレートに本音を言えないんだろう。
「ねぇこれから、グループラインから茉奈のこと外しちゃわない?」
鈴子がにやりと笑う。その悪魔の笑みに心臓が凍り付く。
「いいねー! 外そ! 外そ! もう、茉奈としゃべりたくないもんー!」
「花音もいいでしょ?」
鈴子に言われ、一瞬固まる。数秒の沈黙の後、首を縦に振る。
「うん……」
「よかったー! 花音が味方してくくれて! てっきり、花音は茉奈の味方すると思ってたよー! 花音、やたらと茉奈と仲良いからさー!」
「じゃ、決まり。これで茉奈はハブ」
「いつやるー?」
「今夜!」
盛り上がる二人の前で、「こんなことしちゃ駄目だよ」のひと言が言えない自分を恥じていた。
小学校の時も中学校の時も、仲良しグループでこんなことはいくらでもあった。でもわたしは友だちが間違ったことをしていても、それは駄目だよ、なんて言えない。