バスに揺られて帰ってきて、家までの道をのんびりと歩く。秋の初めの夕暮れ時は、西の山がオレンジに染まり始めて、とっても綺麗だった。ところどころ、もう紅葉しているところもあるのか、茶色っぽかったり赤になったりしているところがある。


「学校、どうだった?」


 胸ポケットに入れているシンバに話しかける。シンバはポケットから器用に出てきて、ちょこんと肩に乗る。


「うん、面白かった。なんでもかんでもでっかくて、授業も聴いてて面白かった。数学はちんぷんかんぷんだったけど」
「わたしも数学、苦手。計算は速いけど、グラフや図形が出てくると頭が混乱しちゃうタイプ」
「俺も。男だけど女性脳なのかな、俺」
「シンバは力持ちで運動神経がいいから、男の子だよ」


 シンバが黙り込む。少しひんやりした風が膝上十センチのスカートを揺らす。


「授業は面白かったけど、友だちといる時の花音は、ダサかったな」
「なんで?」
「だって、友だちの機嫌窺ってばっかりで、全然自分の気持ち言えてねぇじゃん。そういうの、すんげぇダサい」


 ぐさりとくる言葉なのに、シンバが言うと素直に受け入れられる。だって、本当にその通りだから。


「俺と話す時はいつでもものをズバズバ言うのに、なんで友だちの前だとあんなんなんだよ。本音を言えない友だちなんて、本当の友だちじゃなくね?」
「……シンバは、友だちいたことあるの?」
「小人の友だちは、いねぇな。山狩りしてても、今は滅多に、他の小人に出会うことはねぇから」
「友だちがいないシンバに、友だちのことはわからないよ」


 シンバがしばし黙り込む。遠くの空を飛行機が一台、横切っていく。


「たしかに俺は、小人の友だちなんてまだ出来たことねぇょ」
 シンバの声が、ちょっと鋭くなった。


「でも俺は、もし友だちが出来たら、なんでも言い合える関係になりたい。花音みたいに相手の機嫌窺ってばっかの友だちなんて、嫌だ。本当の友だちになりたい」
「……男の子は、そうかもね。でも女子グループって、難しいから」
「女子も男子もねぇだろ」


 シンバが冷たく言って、ふうとため息を吐く。


「花音はほんと、いい子過ぎるんだよ。優し過ぎて、いつも人の顔色窺い過ぎ。人に気を遣い過ぎ。なんで家族の前ではあんなにいい子なのに、友だちの前だとああなっちゃうんだよ。お前はあいつらといて本当に楽しいのかよ」


 そこまで言われると、言葉が出てこない。
 シンバはわたしの抱えているもやもやの正体を、見事当ててしまった。


「ま、花音の問題だから、花音がなんとかするしかねぇけどな」


 そう言って、シンバは遠くから犬の散歩をしているおじいちゃんを見つけた途端、胸ポケットに戻って行った。
 シンバのいる左胸がじくじく、痛かった。