高峰くんが素早くブレザーのポケットからお札を取り出した。



「ここ…」



無我夢中で走っていたから気づかなかったけど、ここは有紗が死んでしまった交差点だ。


高峰くんが見ている視線の先には、大きな黒い影が交差点を歩く人たちに覆い被さるようにしてゆらゆらと揺れていた。



「早くどうにかしないと、ここで大量殺人が起きてもおかしくない」


「え!?」



その時だった。交差点を歩いていた人たちの足が、まるで地面に縫い付けられたかのようにぴたっと止まってしまった。



「なんだこれ!?」


「きゃあ、足が動かない…っ」



ざわざわと騒ぎ出す人たちなんてお構いなしに、信号が点滅し始めた。