「大切な人…だったんですか…？」


「…ええ。大好きな人だったの。彼だけが私の味方でいてくれて、私の全てだった。他校だったから、私の力になれなくてごめん、って彼にいつも謝らせてしまって。彼は桜の木みたいな人だったの」



華澄さんは俯き、その瞳からは涙が零れていた。


零れ落ちた涙は、地面に落ちる前に消えてしまっている。



「私は…彼みたいに強くなれなかったの。だから、そんな自分に嫌気がさして、積もりに積もった気持ちを止められなくて、住んでいたマンションから…飛び降りた」



なんて声をかければいいのか迷っていると、隣で黙って話を聞いていた高峰くんが口を開いた。



「それでおまえは楽になれたのか？死んでからの49日、いやまだ42日か。何を思って過ごしていたんだ？」


「死んだら、楽になれると思っていたの…。だけど現実はそんなに甘くなかった…」


「おまえの親は学校に訴えに行き、今でも夜な夜な涙を流している。一人娘の苦しさに気づけなかった自分たちを責めて。そしておまえの彼氏、秋本尊(あきもとたける)は大切な人を失った悲しみから、一歩も部屋の外に出てこなくなり、ついには自殺未遂までして大変だったらしいな」