だから嫌なんだ。自分の思うままに動くことは。



「…私、ここに来たことあるわ」


「…え?」


「懐かしい…」



華澄さんは今までで一番優しい顔で微笑んだ。その瞳は少しだけ潤んでいる。



「嫌なこととかがあるとね、ここによく来ていたの。中学の頃から私いじめられていたから。言い返せない自分が、大嫌いだった。…だけど、桜の木を見るととても落ち着くの。一人で強く生きているこの木を見て、私も頑張ろう、っていつも励まされてた」



そっと華澄さんが桜の木に触れた。



「…だけどね、私はこの木みたいに強くはなれなかった。いじめはおさまらなくて、いつしか学校を休むようになって、そしてこの公園には来なくなったの。逃げたのよ、私は。だから彼とも…」



そこまで言って華澄さんは口を閉じた。