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「失礼します」
全力疾走で乱れた呼吸を整えてから、保健室のドアを開ける。だけど、そこには誰もいなかった。
ビニール袋だけ、もらっていこうかな。
保健室に足を踏み入れたとき、背後に人の気配がしてぽんっと肩を叩かれた。
「三芳、どうした? 具合悪いの?」
驚いて振り向くと、そこには川名が立っていた。
走って来てくれたのか、私の顔を心配そうに覗き込む彼の肩が息を整えるように小さく上下に揺れている。
「え? どうして?」
彼女に傘に入れてもらって帰ったんじゃなかったの?
「どうしたのか聞きたいのはこっちだって。昇降口から三芳が走ってくとこが見えたんだけど、なんか様子が変だなって────」
私が濡れた体操着を持っていることに気付いた川名が、はっとしたように言葉を切った。
「三芳、それって……」
眉を寄せた川名が言いたいことは何となくわかった。
きっと、また嫌がらせなのかって聞きたいんだと思う。
「ちょっと汚れてたから、洗ってたの。濡れたままじゃカバンに入れられないから保健室でビニール袋もらおうと思って。具合悪いとかじゃないから、気にしないで」
「家で洗濯できないような汚れ方だったってこと?」
含みを持たせた川名の聞き方に、うまく答えられず視線を逸らす。
「昼間のこともあるし、なんか心配なんだけど」
「川名に心配されるようなことなんて何もないよ。私は平気だし」
苦笑いで川名を交わそうとしたら、やけに深刻なそうな目をした彼に手をつかまれた。