「気になってること、ひとつだけ聞いていい?」
「何?」
「三芳さ、さっき佐藤達にわざと背中押されてなかった?」
川名が、小声で私に訊ねながら眉を顰める。
ただ定食をひっくり返しているところを助けてくれただけなのかと思ったけど……。川名は私がトレーをひっくり返すまでの一部始終を見ていたらしい。
トレーを持っている私の背中を押してきた誰かの力は強かった。
悪気なくぶつかったというよりも、意図的に押された。そんな気がした。
膝をついて転んだあとに後ろから聞こえてきた笑い声は、たぶんクラスメートの佐藤さん達のもの。直接顔は見なかったけど、つい最近まで近くでよく聞いていた笑い声だったから間違いないと思う。
「三芳って、佐藤達と仲良くなかったっけ?」
川名に訊ねられて、一瞬答えに迷った。
「つい最近までは、そうだったと思います……」
「何で敬語?」
「なんとなく?」
「この前も折り畳み傘壊されて、靴箱に入れられてたじゃん。もしかして、それも佐藤たち?」
「さぁ、どうかな」
ちょうど1週間ほど前。鞄に入れていたはずの折り畳み傘が鋏で切り裂かれて私の靴箱に入っていた。
壊れた傘を持って途方に暮れていたところにたまたま通りががったのが川名で。そのときも、彼が私に声をかけて助けてくれた。
普段はクラスメートとしての関わりしかないのに、ピンチのときに手を貸してくれる川名はいいやつだ。
思えば、川名はよく一緒に遊んでた小学生のときからいいやつだった。