「ここ片付けといてやるから、先に手ぇ洗って来いよ」

 川名がそう言って、床に散らばったご飯やおかずを雑巾で拭き取っていく。茫然とその様子を見ていると、不意に顔をあげた川名がにこりと笑った。

「どーした? あ、ついでにこれで制服の汚れも拭いてきな」

 川名がそう言って、汚れていない綺麗な布巾を手渡してくれる。

「あ、りがとう……」
「ほら、早く行ってきな」

 布巾を手にしたまま立ち上がれずにいると、川名が私を手で追い払う。
 彼に促されるままに立ち上がった私は、よろよろと歩いて学食から一番近いトイレに行った。

 お味噌汁をかぶった手を洗って、汚れた制服のスカートを濡らした布巾で拭く。
 汚れは取れても制服についたおかず臭はどうしても消えない。臭いを気にしながら戻ると、定食を溢した床はほぼ綺麗に片付けられていた。

「ごめん。ほとんど片付けてもらっちゃって……」
「そんなこと気にすんなよ。たまたま通りすがっただけだし」

 川名が顔の前で手を振って、あたりまえみたいに笑う。
「ありがとう」
「どーいたしまして」

 くしゃっと崩れた笑顔が、小学生のときに一緒に遊んでいた頃の川名の印象を思い出させる。
 こんなふうに笑ってるとこ、ひさしぶりに見たな。そう思ったら、ほんの少し胸が騒いだ。

 懐かしさに唇の端を微妙に引き上げていると、川名が「それよりさー」と言いながら急にぐっと距離を詰めてきた。
 驚いて身を引くと、彼が周囲を窺うようにちらっと左右に視線を走らせる。