妖は古来より境目を好む。橋などの代表的なものや、昼と夜の境、明と暗が曖昧になる夕暮れ時を逢魔刻(おうまがとき)といい、妖が動くと言われている。
 月と月の境、月の最終日を晦日(つごもり)といい、特に年の境を大晦日(おおつごもり)、または果ての晦日という。一年で最も妖の動きが活発になるときである。
 大晦日にはあらゆるものが宿す霊力や妖力も最大になるため、それを狙うものの動きも自然活発になる。力を欲するものほど、果ての晦日を選んで狙ったものの力を己に取り込むのだ。

「今年の大晦日は面白そうじゃのぅ」

 珠璃堂の奥座敷で、四郎と一八の話を聞いていた妖女姫は、檜扇を弄びながら呟いた。透き通るように白い肌に、流れる漆黒の髪。結い上げた前髪には、金と銀の釵子(さいし)が光っている。古風な唐風の衣を纏い、ゆったりと脇息にもたれかかる姿は、絵巻物から抜け出たように美しい。

「広綱と申すその男、安倍の家系か、小野の家系か……。何にしても情けないのぅ、己の器のほどもわからぬとは」

只人(ただびと)の血が濃くなってるんでしょ。陰陽師がもてはやされたのは、昔のことでやんすよ」

「惜しいことよの」

 妖女姫は手元の水盆に目をやると、顔を上げ、庭を見た。