僕は今行きつけのバーで、起業家である友人の話を聞いている。

「で、お前が起こした会社のほうは上手くいっているのか?」

僅かな沈黙の後、彼がばつが悪そうな顔をしながら答える。

「…いや、それが実は、まだ起業していないんだ。」

「え…」

僕は唖然とした。

もう彼はとっくに起業して、成功に向かって毎日バリバリ働いていると思っていたからだ。


「まだ起業してないって、どうしてだよ。」

「もちろん僕も起業しようとしたさ。でも起業するにしてもリスクマネジメントは必要だろ。そういったことも考慮した結果僕はまだ起業してないんだ。」

僕には彼が言っていることが言い訳にしか聞こえなかったが、一応話を聞いてみることにした。

「どういうこと?」

彼はこれまでの経緯を語り始める。

「僕はまず不動産を扱う事業を始めようとしたんだ。そこで始める前にどれくらい不動産経営が難しいかを調べてみたんだ。そしたら不動産経営で成功する人は僅か数パーセントの人だけで、残りの人は痛い目を見るって書いてあったんだ。だから僕は不動産事業を始めることをやめた。その後もいろいろな事業を計画したんだけど、どれも不動産と同じで成功する人は全体の中のほんの数パーセントだけ、だから僕はまだ何の事業にも手を出せていない。」


僕は彼に問う。

「お前は起業して成功したいんだよな?」

彼が答える。

「もちろんだよ。成功して、大金や名声を手にしたい。だから僕は起業するんだ。でも起業家といってもお金がなくなったらそこでおしまいだろ。だからリスクをきちんと見極めなきゃいけないんだ。」



僕は彼に告げる。

「僕の見る限り、君が成功することはないと思うよ。」

「どうしてそんなことを言うんだ!」

彼は不快感を隠さず僕に言った。



僕は静かに答える。

「だって君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。」

「っ!」

その後、バーでは長い長い沈黙が続いていた。