手に、ハガキを持っている
局長に、シオンは

「中を見てもいいですかっ?」

断りを入れて、
笠の雪を外で払って、脱ぐと
双子達も、同じようにして
笠を脱いだ。

普通の郵便局とは違い、
広いカウンターの中も
オープンになっていて、
真ん中には
モビールを思わせる
天井から無数のアルミケースが
下がっている。

観光客らしき若者が
思い思いに ハガキを手に読み、
過ごしている。

壁一面には
振り分け棚に 行き場のなく
とされた
積まれているハガキ。

「よろしければ、
読んでいって ください。」

局長が ダルマストーブを示して、
椅子があるのを教えてくれた。

シオン達は、
別れて、ハガキを手にする。
本来なら、読書する要領で
なんとはなく
手にしたハガキを読むのだろう。

『最後に、あの島の郵便局に
行ってみても いいかもしれ
ません。私も、このハガキが
息子からの言葉に思えて、』

つい、もらってきました。
と、
そのお遍路さんは
懐からハガキを出して
シオンに見せてくれたのは
双子達と合流した
次の雪道だった。

差出人の名前のない、
件の郵便局宛のハガキ。

引きこもりの子供を
想って遍路に向かう
途中の島で、
噂の郵便局に立ち寄ったと

そのお遍路さんが
マイケルの行方を聞き込む
シオンに 思い出した様に
話してくれたのだ。

『自己満足かもしれませんが、
もう少し頑張ろうかなと、
思えますから 現金なものです』

人の数だけ 事情があるのだなと
改め思わされた
シオンは、
読んだそのハガキを
お遍路さん 返して

「ありがとうございますっ、、
最後に、寄ってみます絶対」

と、握手をした。

そのお遍路さんが、再び雪の道を
シオン達と交差して行って
しまう姿は妙に印象に残った。

シオンは、
マイケルの為に歩いた
この遍路の締めくくりに、
その郵便局に寄る事を
双子に伝えた。

「馬鹿みたいな考えだけどっ、
マイケルが どんな気持ちで
お遍路を始めたのかって、
考えれる手紙があるかもって」

神隠しのように行方を
くらましたマイケルの捜索が、
シオンが帰った後には
本格的に始められる。

警察とは別の私設捜索を、
マイケルの親族が
間もなく開始する。
双子達は
その陣頭指揮を取るため
準備に入るにもかかわらず、
最後までシオンに
着いて送ると言って

今 各々ハガキを眺めている。

ダルマストーブの上には
ヤカンが、かけられ
緩やかな湯気を
燻らせて暖かい。

シオンは、
局長の座るカウンターに
アルミの箱に入った モノに
目がいった。

「この島の海底から
引き揚げられた 漂流物です。」

まだこの国が 海に囲まれる以前
大陸の半島だったごろは、
瀬戸内は川だった時代の
ナウマン象の骨。
遠い歴史に大陸から
運ばれた荷物。
瀬戸内は
水中考古学の宝箱だと
局長が、小さな漂流物を
手に取りながら
話てくれる。

「干潮時に現れる参道とか、
浦島太郎縁の海底話も
あるのが この海です。」

浦島太郎が助けた亀の分骨地が
この島だったりと、
局長の声は 穏やかだ。

「ロマンがあるんですねっ、」

シオンは 局長の言葉に
何の成果のない
旅の疲れが癒されて 聞く。

ふと、
局長の手元にあるハガキが
シオンの目に止まった。

「そのハガキにはっ、何って
書いてるんですかっ?」

シオンの言葉に、
局長は 少し 照れた顔をして


「墓で、待っているよ。
生まれた時から、

愛している。 君へ 」

読んでくれた。


「えっ、、、?」

シオンは、ハガキの文章に
思考が止まる。

そんなシオンに、
さすがに何回も 読めないですと、

手にしていた ハガキを局長は
シオンに渡してくれる。


墓で、待っているよ。
生まれた時から、

愛している。 君へ


もちろん、差出人は無い。

何の変哲もない 真っ白いハガキ。
に書かれた言葉は、
まるで シオンに残された
ように 胸に染みて

ついっと、
目の前にハンカチが出された。

「使ってください。」

局長は、やっぱり穏やかな
笑顔で、シオンにそれを
渡してくれるから、

シオンは 涙が流れている
事に気が付いた。

「よく、あります。ここでは、
あなたのような 体験は。」

後から後から
両方の目から涙が
静かに静かに流れる。

「持って帰りますか。」

ハガキどうぞ、と局長が手を
差し出す。

シオンは、黙って、
首を横に振って、
手のハガキを
どうぞ、と言われた手に
そっと返した。

ヤカンの湯気さえも
体に暖かさをくれる。

「いいの、ですか。」

もう1度確認されるのを、

口を子どもみたいに
への字にして
シオンはハッキリ頷く。

礼をして、ハンカチの好意には
甘えて、
シオンは 涙を拭き上げた。

「気持ちはっ、充分受け取り
ましたから、あハンカチ、」

かまいません。と、
局長は 笑ってポケットへ
戻す。

ガタガタッ!!

同時に
椅子を派手に動かす音がして、
シオンはその方へ視線を
移した。

「シオンさん?!コレ!」

天井から
モビールに吊り下げられた
アルミケースの1つを指さす
双子クールイケメンが、
やたら狼狽えている。

「よければ、手にどうぞ。」

シオンの隣から局長が
何なく、慌てるクールイケメンに
アルミ箱を開けるように
促した。

狼狽える片割れの声に反応した
双子クールビューティも
アルミ箱に近寄る。

吊るされたアルミケースには、
所々ハガキが入って
揺らめいて漂う。

今日到着したハガキが
1枚ずつ 入れられていますと、
さっき説明された。

その1つが
ハガキではなく
蝋で封印された 封筒だと
その異質さに
シオンも気がつく。

何かとても 古そうだ。

「コレ、封蝋の印が、、
お嬢様の印、です。ハイ。」

やっぱりそうです。
と、双子達は
目を白黒してシオンに示した。

「何?マイケルが ここに出して
いたってことっ?うん?でも」

局長は、モビールのは
今日届いたハガキがはいってる
って、言ってましたよね?っと
シオンが聞く。

局長は、ゆっくり 頷いた。

「???」

よくわからないっ?ーと
アルミ箱から 草臥れた手紙出す。

差出人は、

「Michael・Yang」


宛先は 何故かこの郵便局でも
なく空欄。
そして封蝋は 開いていない。

シオンが怪訝そうな顔を
カウンターの局長に向けると、

「直接 この局ポストへ
入っている
ハガキもあります。あのように」

なるほど、外のポストに
観光客が直にハガキを入れるのが
シオンにも 見えた。

「お嬢様が、ココヘキタ?」

いや、ないですよ。
無事なら連絡アリマスと、
クールビューティが
ますます不可解そうに
頭を傾げる。

「開ける!それからだ!」

クールイケメンは、
躊躇なく封蝋を指で弾いて
封筒を開けた。

いっしゅん、、

お香の薫りが
鼻を掠めて、

やはり年代ものらしい風貌の
便箋が1枚出された

中には


Iam happy。But forget。

私は大丈夫。だから忘れていい。

这是天堂。活在记忆中。

Michael・Yang


と、ボンヤリとした
インクで書かれていた。


シオン達3人は
お互いの顔を見つめた。



歩き、
自分の中にある
蓋をした感情を吐き出す。
そうして巡り終える時

再び生まれ変わる。


マイケルが遍路をした気持ちは
マイケルのもの。
その跡を少し辿って
シオンが感じた 考え。

お嬢様な彼女は
地べたを歩いて
何かを変えたかったのだろうかと
感じているが、答え合わせの
相手がいない。

遍路という巡礼は、
虚空の母胎
大いな宇宙のような無に
導かれ抱かれる道。

どこまでも

家庭的なという理想な伴侶を
思う上司、ハジメに
なら
マイケルにもっと
的確な言葉を渡せたのでは
とも今更に
シオンは思う。


冬の海は 灰色で、
降る雪は白く
波に消えては 積もる事はない。

シオンの従兄弟達も、
どこかで
この雪を見ているだろうか。



「シオンさん、ありがとう。
お気を、つけ下さいね。」

双子のクールビューティが
シオンの手を両手で
握ぎると、冷たい。

「何のお役にも立てず。
すいません。ハジメオーナーに
話をしておきますっー。
こんな時だから、オーナーも
これなくて、、」

オーナーなら何か
わかったかもしれないと、
恐縮する シオンに

「コレと出会いは、シオンさん
お陰ですよ。さあ、」

船が出ますと、
遍路装束のクールイケメンが、
腰から法螺貝を手にして
シオンに乗船を促す。

シオンは苦笑するしかない。

双子は引き続き、
捜索の為 この遍路の島に
残るのだ。
その時には、法螺貝を鳴らすと
冗談みたいに
シオンは伝えてられた。

「あのっー、写真撮ってもらって
いいですかっ?!すいません」

シオンが、
船の桟橋で切符をもぎる
スタッフに
電話を渡して、お願いすれば

快く受けてくれるスタッフ。
その前で、
わざと、明るく
双子達と3人でポーズした。

「この手紙っ、筆跡鑑定したら
連絡、くださいねっー!」

乗船してシオンはクルリと
双子に振り返ると、
2人は 大きく笠を上下させた。

船のエンジン音が始まる。
スクリューが回る振動が
伝わると、もう お互いの声は
聞こえない。

港はどんどん 離れて
小さくなるが、
双子の白い遍路姿は
ずっとそこに
あった。

ほんの1週間が、
長い年月に感じた濃い時間を
過ごした双子。

シオンは電話を開いて
さっき撮ってもらった写真を
改めて開いてみると、

クールイケメンは
法螺貝を掲げて、
クールビューティは
人形のように不動。

に映っている。

シオンは
封蝋が開けられた手紙を
胸の前に持ってのポーズ。


『Oooon Ooun Ooooon Ouoon』
『 Oooon Ooun Ooooon』

突然
港から、山で聞いた
法螺貝の合図が聞こえた。

双子のクールイケメンは
まだ吹く事が出来ない。なら、
あれは どんな山伏が
合図を送っている?

シオンは、音の方を
確かめるが
そこに人は見えず、
船は
音だけをいつまでも乗せて
走るだけだった。

写真を ギャラリーの
ハジメとヨミに
シオンは送信する。

帰って日常の仕事が始まれば、
この一連の事柄をして
また 新しい話を始めるのだ。

空からまた雪が降り始める。

もうすぐ
従兄弟達の母親、
叔母の1周忌がやってくる。

未だ見ない恋バナをした友人、
令嬢マイケルは
見つからない。




『冬よ花弁。彷徨う街で君を探したなら「序」』

2020・12・26~ 2021・1・25
脱稿 さいけ みか