<( 墓へ行った )


レンの
電話がメッセージ着信の点滅を
して、画面には
その一行だけが 表示された。


クリスマスが開けた街は
足早に年の瀬の慌ただしさへと
装いを変えて、

その身に纏うブラックコートを
容赦なく侵す 寒さえも
間近に迫る年越しを
思わせて、居心地が悪い。

表示されたメッセージを見る、
長身なモデル体型の美丈夫は
1人。

吐く息の白さが
どこか 映画の様に
現実味を帯びないフィルターと
なって
整った横顔に被さると、
息ごしに見える美影は
まさに
『氷の貴公子』を思わせる。

そんなブラックコート姿の、
レンは、
ほぼ一年ぶりの沙汰となる
弟ルイのメッセージを読んで
何故か 薄笑いした。

別に 馬鹿にしたわけでなく、
揶揄した笑いでもない。

ただ、ほんの1年前は、
やり取り1つせずに
10年以上
互いに存在を無にしていた
唯一の家族から送られた

一言の素っ気ない
メッセージに
可笑しいような、
不思議な心地になって、

久しぶりに 薄っすらと
心に『何が』灯るような
感情を覚えた自分に、
笑えただけだ。

王者達のクリスタルシャンデリア

1人、
かつてビール工場があった
複合施設に佇み、
出した電話を直して
今年も 飾られた、
世界最大級のシャンデリアを
ガラス越しに見上げる
レン。

その あまりに
雰囲気あるイケメンな姿の
絵になる光景に

男神か?。

と、
目を目張り
声をかけようか
ヒソヒソ囁く女の子達が
何組も盗みを見しながら、
通り過ぎているのにも、
お構い無し。

レンは

250ものランプに照らされ
輝くクリスタルパーツの
青い光、
今年ならではのシャンデリアを
見上げ続ける。

この青は、
今も奮闘する医療従事者方への
敬意を評して灯される
ブルーシャンデリアの青という。

クリスマスから始まった
全国のイルミネーション達には、
青いライトアップカラーが
今年は
そこかしこに現れた。

「祈りのブルー、、か。」

その青い250灯の中に
赤ルビーカラーが光る八角形の
クリスタルがみえる。

紛れもなくブランドクリスタルの
シャンデリアで
有る事を象徴する
『オクトゴン』だ。

クリスタルに純金を混ぜて
540度という高温再燃させる
事で、発色する血のような赤。

レンは、
8500とある透明なクリスタルに
たった1つ混じる、
この赤を自分に重ねる。

遠い夏の夜にみた
従姉妹が広げる
純白のレースワンピース。
あれを汚した
一点の赤は 己の血だった。

世界中にある
ブランドシャンデリアに必ず
この赤は
真贋示して存在する。

ゴージャスな光源と
共にある赤のように、
ドレスの襞に付けて回る赤は。

毎年それを感じて、
最大級のシャンデリアを
見上げ、
今年も1人でいる。

「やけに、独りを感じるかな。」


大手企業の研究所に
30代の若さで
所長の任につくレンにとっても、
この年は 余りにも
変革のある年になったと、


ブラックコートのポケットに
自然と指先を入れた
レンは物憂げに
視線を落とす。

結局、今年も 仕事の関係者と
24日、25日と過ごしたレンは、

これから
そのまま新幹線に乗るつもりで、


( 今から 墓に行くよ )>


唯一の家族である
弟ルイに、初めて メッセージを
送って

青く光るシャンデリアを
後ろに歩き始めた。