ペガサスに乗ったまま、ふらふらと夜明けの海を飛んでいると、海岸の岩に人影が見えた。
 なんだろうと思い、 俺はふわりと岩に飛び降りると、薄物をまとった美女が岩にくくりつけられていた。
 まだ日は昇りきらず、白い肌は小刻みに震えている。
波しぶきで濡れたドレスは肌に張り付いて、彼女の見事な曲線を描いていて、相当にエロい。
 手と足を岩に張り付けるように鎖でつながれていて、それがまたゾクリとさせる。
「うわっ、刺激、つよっ」
 思わず口にする。
「ねえ、君、なんでこんなところに縛られているわけ?」
 よほどの罪人だろうか。それにしては、薄物のドレスは上等で、まるで新婚の閨の服のようだ。
「いやらしい目で見ないで。私は海の怪物にこれから捧げられる贄なのですから」
 ツンとした口調で、美女はそっぽを向いた。強気な言葉と裏腹に、その瞳の奥に怯えが浮かぶ。
「へぇ、俺がその怪物を退治しちゃったら、君を好きにしてもいい?」
 情欲に突き動かされながら、俺はその美女を舐めるように見る。
 潮風に乱された長い金髪を、俺は指に絡ませて、ふっと唇をよせた。
「ぶ、無礼な。私はエチオピア王女、アンドロメダ。行きずりのあなたのようなひとなどお断りです」
 美女は俺の視線から身を隠そうと体をよじる。
 それが、また、艶めかしかった。
「へー、お姫さまがどうして、贄なんかになってんのさ」
 つうっと白い、アンドロメダの肌を俺は視姦する。豊満な双丘。くびれた腰。細く長い白い脚。
ぞくぞくする美しさだ。
「それは……あなたには関係ない事です。命が惜しくば、早々に立ち去りなさい」
 羞恥心に顔を赤く染め、アンドロメダは強気な口調で命じる。
 俺は、彼女が動けないのをいいことに、唇を奪い、彼女の白い鎖骨を指で撫でた。
「なんか、俺、やる気になっちゃったんだよねー」
 泡立つ水面を見ながら、俺はゆっくりと剣を抜いた。

 海面が大きな渦を巻き、黒い影が水面に近づいてきた。小山ほどもある大きな影が、ザバンと跳ね上がり、大きなひれがアンドロメダの身体を叩き落とすように迫った。
 俺は剣を走らせ、ひれの皮膚を切る。
ぎゃあっ
 そいつは、大声を上げ、海面に落ちた。
 ザブーンと、海水が間欠泉のように吹き上がり、俺の全身を濡らした。
「うーわ。つめてぇよ」
 俺は顔に滴る塩水を舐める。
 大きなキバをもった化け物は、ひれを動かした。水柱が俺をめがけて突き上げてくるのを、俺は身体をひねって避けた。
「無理しないで、逃げなさいっ!」
 アンドロメダが叫ぶ。
「へぇ。心配してくれるとは、可愛いな」
 俺は思わず口元に笑みを浮かべた。
「こうみえても、神の子なんで」
 俺は、ヒョイっと、身体を宙返りさせ、化け物の背に乗り、そいつの眉間に剣を突き立てた。
ぐあーっ
 化け物が叫ぶ。
「アテナの剣のキレ味、最高だろ?」
 そのまま、すうぅっとそいつの身体を切り裂く。
ぎゃあああああ
 断末魔の叫びとともに、黒い影が海底へと沈んでいった。
 穏やかな海が戻ってきたころには、青い空が広がっていた。