たどりついた島は、小さくて、やけに岩の多い島だった。
 潮騒の音がうるさい。月明かりの中、ぐるりと島を一周してみたが、動くものが見当たらない。
 ゴルゴン三姉妹が住んでいると思しき洞窟は、すぐに見つかった。洞窟の奥から、青白い光が洩れてきている。
 俺はハーデスの隠れ兜をかぶり、足音を殺しながら、アテナの磨かれた盾を見ながら後ろ向きに歩く。
 足場は、ごつごつして非常に悪い。薄暗い洞窟の奥からの僅かな灯りを頼りに俺はゆっくりと歩いた。
 海からの潮の香りが遠くなるにつれ、生臭いようなにおいが漂い始める。
 シュー、シューという息遣いがきこえてきたのは、その僅かな灯りの源に近づいたころだった。
 みたこともない青白い光を放つ炎がめらめらと宙に浮いて燃えている。
 俺はゆっくりと盾の角度を変えながら青白い光に照らし出されている風景を確認していった。
 女が三人、岩棚に腰を下ろすような形で眠っている。女たちの髪は腰まである長さで、なぜかゆらゆらとうねっている。よくみると、髪は、細長い蛇でできていて、チロチロと赤い舌をだしながら、女たちの肌の上を這いまわっていた。
「あ……ン」
 女の一人が、艶めかしい淫猥な声を漏らしながら、寝返りを打つ。その肌は、ぬめぬめと濡れていて、テラテラと鈍く光る。僅かに肌を隠している布きれの中に、蛇が潜りこんで蠢いていた。
 背筋がぞっとする光景である。
 俺は、三人の姿をゆっくりと観察し、豊満なこぼれそうな胸が上下している唯一の女へと近づいていく。
 ピシャリ。
 岩屋の天井から、雫がぽとりと女の頬に落ちた。
 クワッ。
 女の赤い目が見開く。俺は、まよわず、盾を見ながら剣を宙に滑らせた。
ギャーッ
 激しい血潮が噴き出した。
 ヒヒーン
 大きくウマがいななく声がしたかと思うと、バサリと俺の切った首から白馬が飛び出してきた。純白のその馬には、美しい羽が生えている。
 俺は後ろを向いたまま、蹴りをかまして、立ち上がってきた女のどちらかを蹴り飛ばした。
 どすっ
 鈍い音がして、女同士がぶつかった気配がしたが、かまう暇はない。
 俺は剣をしまい、盾を見ながら切り落とした首に手を伸ばしキビシスに放り込むと、そのままその白い馬にまたがり、洞窟を飛び出した。
 飛び出した海に、暁の太陽が色を染め始めていた。