準備に、三日の猶予はもらったが、そもそもゴルゴン三姉妹って、どこにいるのかも知らない。
だいたい神の子っていっても、カミサマは俺に何かをしてくれたことがあったのだろうか?
王宮を退出した俺は、どうにも納得できない気持ちで、ゼウスの神殿へと向かった。
夜はどっぷりと更けて、潮騒の音が聞こえている。
特にプランがあったわけじゃない。
ただ、聞いてはもらえないにしろ、愚痴の一つも親父とやらに言ってやろうと思った。
神殿へと続く石階段を昇っていくと、甲冑を着た人物が立っていた。
暗闇だというのに、やわらかな光を放ち、くっきりと姿がわかる。整いすぎている美しい顔。そして、男ではありえない、美しい曲線を帯びた体つきをしている。
「待ちわびたぞ、ペルセウス」
低い声音で、俺の名を呼ぶ。
「えっと。どちらさまで?」
あいにく暗闇で発光するような知り合いは一人もいない。
「甲冑着た美女の神って、ひとりしかいないでしょーが!」
唐突に彼女は、ぱしっと俺の頭をどついた。
「……神様というと、戦いの女神のアテナさまで?」
「美しき戦いの女神、アテナでしょうが」
ぐいっと、俺のアゴに手を当て、睨みつけられる。
「そのとおりです」
俺が頷くと、アテナは満足したように頷いた。
「あの……その、アテナさまが俺になんか用ですか?」
アテナは俺の顔をしげしげと覗きこむ。
「んっ。半分は私の弟だけあって、カワイイ顔しているわね。んー、禁断の愛とか芽生えちゃったらどうしよう、なーんてね」
一瞬、背筋がゾクリとしたような気がするのは、きっと勘違いであろう。
「あなたと私は、同じゼウスの子。だから神と半神とはいえ、一応、姉弟なわけ」
くすくすとアテナは笑う。
「喜びなさい。可愛い弟の為に、ねーちゃんがひと肌脱いであげよーと思って」
「脱ぐ?」
思わず、女神の胸元に目を向ける。暗闇で青白く発光する白い谷間は、妙にイヤラシイ感じだ。
「その脱ぐじゃない!」
本気のゲンコツが頭に入る。すごく痛い。
「神託を授けてあげよ―じゃない」
アテナはニコリと笑って、手を振り上げた。
するとカランと音がして、盾と剣が石畳に現れる。
「明日、日が昇る前に東にある風の丘に行きなさい。ヘルメスが待っているわ」
「ヘルメス? え?」
「メデューサを見るときは、その盾に姿を映して見なさい。そうしないと、石にされてしまうわ」
俺は、石畳の上で光り輝く剣と盾を手に取った。明らかに、人の手で作ったものではない。
「とりあえず、しっかりやりなさいねー。仮にも半分、神なのよ。あなたが失敗すると、こっちも恥ずかしいわ」
アテナは言うだけ言って、すうっと天へと消えていく。
暗闇でそこだけ光り輝いて天に昇るさまは、『あ、本当に神なんだ』とつい思った。
「しっかし、神託って、もっと仰々しいものだと思ってたけどなあ」
俺は呟いて。取りあえず、アテナから剣と盾を借り受けることにした。