天馬を駆り、俺は西の果てのアトラスに会いに行った。
「おおっ、待ちかねたぞ、坊主」
アトラスはにこやかに笑いかける。
俺と、俺の腕の中にいるアンドロメダを優しい目に映した。
「随分と美しい嫁を拾ったものだな」
「まあね」
アンドロメダが顔を朱に染めている。
「気持ちは変わらない?」
俺は念のために確認する。
「ああ。やってくれ」
アトラスは静かに頷いた。
俺はアンドロメダに目を閉じるように言って、キビシスの中の首を取り出す。
「ああ、そうだ。坊主。早く戻ったほうがいい。お前の母親が狙われている」
最後に遠くの方に目をやったらしいアトラスが、ピキピキと音をたてながらそう言った。俺は、首を袋にしまって、目を開けた。
とても静かな笑みを浮かべながら、アトラスが巌となっていく。
「ありがとう」
アトラスは、そう言って。そのまま動かなくなった。
黄昏時、島に戻ると、慌ただしく兵たちがゼウスの神殿を取り囲んでいるのが見える。
俺はペガサスで天を翔けながら何事かとうかがっていると、俺の家の近くで、キラキラと光る光の柱が見えた。光の中に、ひとのような姿がある。
「アテナさま?」
天馬からおりて、近づくと、甲冑を着た女神がひらひらと俺に手を振った。
「ちょーっと、めんどうなことになっちゃって」
アテナはそう言いながら、俺とアンドロメダ、そしてペガサスを見る。
「あら。ずいぶんと、可愛らしい女の子を拾ってきたのねー、手の速さは、やっぱり父神ゆずりかしら」
「……まだ、出してねーよ」
俺がそういうと、アンドロメダが少し震えながら胸を俺の腕に押し付けてきた。柔らかな感触に、びくりとする。
カミサマを前に、緊張しているのかもしれない。
「あらあら。積極的なおじょうさんね。大丈夫よ、あなたみたいなコなら、大歓迎」
アテナはくすりと笑い、それから真顔になった。
「ダナエーが王に手籠めにされそうになって、逃げだしたの。神殿に逃げこんだダナエーをディクテュスが守っている」
アテナはさっと宙に円を描くと、剣を持ち、祭壇の前で、背に母をかばっている俺たちの恩人、ディクテュスの姿が見えた。
母たちは、兵士に囲まれていて。満足げな王ポリュデクテスがそれを見つめている。
「お嬢さんは私が保護していてあげる。安心して行ってきなさい」
「わかった」
俺は、ペガサスとアンドロメダをアテナに預け、ヘルメスのサンダルで風に乗る。
神殿の大きく開いた窓からふわりと、祭壇に降り立った。
「ペルセウス!」
母とディクテュスの声が重なる。息がぴったり過ぎて笑えた。
全然、気が付いてなかったけど、そうだったのか、と、場違いではあるが俺は思った。
「二人とも、目を閉じていて」
俺は、二人を背にしながら小さな声で告げて。
突然現れた俺に驚いている、王たちの方に向き直る。
「お前……首をとってくるまでは、帰参はならぬと言ったはずだが」
王の不機嫌な視線に、俺はニコリと微笑み返す。
そして、キビシスの中に手を入れ、首をつかんだ。
「ご所望の首、あんたに奉じてやるぜ」
ぐいっっとメデューサの首をもちあげると、神殿中にペキペキという音が響き渡った。
「なっ」
驚愕の声をひとことだけ残して……王、ポリュデクテスとその兵たちは石となった。
その後。
ディクテュスが島の玉座に座ることになった。
もともと、王の弟であり、人望も厚いひとだったから、誰も異議は唱えなかった。
俺は、アテナやヘルメスたちから借りていた神の道具と、天馬ペガサス、そしてメデューサの首、全てを神に返し、そして、アンドロメダを嫁にした。
今、母ダナエーは、ディクテュスの隣で微笑んでいる。
いずれ……母が言うには、俺は母の故国であるアルゴスへと行かねばならぬらしいが……それは、また別の話だ。
そして、今もまだ、西の果てには、巌となったアトラス山脈が天を支え続けている。
「おおっ、待ちかねたぞ、坊主」
アトラスはにこやかに笑いかける。
俺と、俺の腕の中にいるアンドロメダを優しい目に映した。
「随分と美しい嫁を拾ったものだな」
「まあね」
アンドロメダが顔を朱に染めている。
「気持ちは変わらない?」
俺は念のために確認する。
「ああ。やってくれ」
アトラスは静かに頷いた。
俺はアンドロメダに目を閉じるように言って、キビシスの中の首を取り出す。
「ああ、そうだ。坊主。早く戻ったほうがいい。お前の母親が狙われている」
最後に遠くの方に目をやったらしいアトラスが、ピキピキと音をたてながらそう言った。俺は、首を袋にしまって、目を開けた。
とても静かな笑みを浮かべながら、アトラスが巌となっていく。
「ありがとう」
アトラスは、そう言って。そのまま動かなくなった。
黄昏時、島に戻ると、慌ただしく兵たちがゼウスの神殿を取り囲んでいるのが見える。
俺はペガサスで天を翔けながら何事かとうかがっていると、俺の家の近くで、キラキラと光る光の柱が見えた。光の中に、ひとのような姿がある。
「アテナさま?」
天馬からおりて、近づくと、甲冑を着た女神がひらひらと俺に手を振った。
「ちょーっと、めんどうなことになっちゃって」
アテナはそう言いながら、俺とアンドロメダ、そしてペガサスを見る。
「あら。ずいぶんと、可愛らしい女の子を拾ってきたのねー、手の速さは、やっぱり父神ゆずりかしら」
「……まだ、出してねーよ」
俺がそういうと、アンドロメダが少し震えながら胸を俺の腕に押し付けてきた。柔らかな感触に、びくりとする。
カミサマを前に、緊張しているのかもしれない。
「あらあら。積極的なおじょうさんね。大丈夫よ、あなたみたいなコなら、大歓迎」
アテナはくすりと笑い、それから真顔になった。
「ダナエーが王に手籠めにされそうになって、逃げだしたの。神殿に逃げこんだダナエーをディクテュスが守っている」
アテナはさっと宙に円を描くと、剣を持ち、祭壇の前で、背に母をかばっている俺たちの恩人、ディクテュスの姿が見えた。
母たちは、兵士に囲まれていて。満足げな王ポリュデクテスがそれを見つめている。
「お嬢さんは私が保護していてあげる。安心して行ってきなさい」
「わかった」
俺は、ペガサスとアンドロメダをアテナに預け、ヘルメスのサンダルで風に乗る。
神殿の大きく開いた窓からふわりと、祭壇に降り立った。
「ペルセウス!」
母とディクテュスの声が重なる。息がぴったり過ぎて笑えた。
全然、気が付いてなかったけど、そうだったのか、と、場違いではあるが俺は思った。
「二人とも、目を閉じていて」
俺は、二人を背にしながら小さな声で告げて。
突然現れた俺に驚いている、王たちの方に向き直る。
「お前……首をとってくるまでは、帰参はならぬと言ったはずだが」
王の不機嫌な視線に、俺はニコリと微笑み返す。
そして、キビシスの中に手を入れ、首をつかんだ。
「ご所望の首、あんたに奉じてやるぜ」
ぐいっっとメデューサの首をもちあげると、神殿中にペキペキという音が響き渡った。
「なっ」
驚愕の声をひとことだけ残して……王、ポリュデクテスとその兵たちは石となった。
その後。
ディクテュスが島の玉座に座ることになった。
もともと、王の弟であり、人望も厚いひとだったから、誰も異議は唱えなかった。
俺は、アテナやヘルメスたちから借りていた神の道具と、天馬ペガサス、そしてメデューサの首、全てを神に返し、そして、アンドロメダを嫁にした。
今、母ダナエーは、ディクテュスの隣で微笑んでいる。
いずれ……母が言うには、俺は母の故国であるアルゴスへと行かねばならぬらしいが……それは、また別の話だ。
そして、今もまだ、西の果てには、巌となったアトラス山脈が天を支え続けている。