「誰かいるー⁉」
大声で怒鳴るけど、雨音にかき消されて相手に聞こえていないのではないかと思う。横殴りの雨は白い直線のように見え、視界を邪魔した。
「見間違いだったのかな……」
手に持った懐中電灯で辺りを照らし、目を凝らす。すると、裏庭の隅っこで誰かが倒れているのを発見した。
背中を恐怖が駆け抜ける。寮生がケンカで怪我をしてくることはたまにあるけど、倒れているのは初めてだ。
長靴で飛沫を跳ね上げ、その人の元に駆け寄る。ぐったりとしているその姿に、私は目を疑った。
「はえ?」
うつ伏せに倒れたその人は、漆黒の長髪をポニーテールにしている。着ているのは、水色の羽織。袖口の部分が白いギザギザ型に染められている。下は灰色の袴、足袋、下駄。そして腰からは、びよーんと天に向かって二本の黒い棒が伸びている。
「んと……ん? え?」
目を凝らしてみるが、彼──背はそれほど長身というわけではないが、肩幅がしっかりしているので多分男だろう──の服装は時代劇に出てくる人みたいだった。
うちの寮にコスプレが趣味の子なんて、いたっけ?