「あ、ほら。違うのよ。貧乏でも楽しくやれてるってこと。両親が亡くなって、私をこうしてちゃんと高校まで入れてくれたのはお兄ちゃんでしょう。これでも、ちゃんと感謝してるんだから。だから私はこれ以上望まない。ボーナスなんてなくてもいいじゃない」
「ふがいない兄でゴメンなぁ」
兄はまた泣いた。バカだが、優しい兄なのだ。そう思っていると、兄は私の両手を掴み、
「でも兄ちゃん、このままだと、クビになるかもしれない」
と言ったのだった。
―――クビ?
「それは困る!」
「そうだろ……。ボーナスはさておき、職までなくなると困るよな」
っていうか、本音を言えばボーナスだってほしいけどね。
私も可憐な乙女。しかも、うちの学校は金持ちが揃う学校だ。放課後、少し寄り道するにもお金がかかるのは事実。
そしてそんな学校にどうして私が通えているかと言うと、兄がそこで教師をしているからだ。
教師の子どもや親族には、学費免除制度がある。正直、その制度を使えば、公立に通うより安いため、私は兄のいる学校を選んだ。
兄がクビになるということは、私も転校を余儀なくされる。せっかくできた友だちともお別れだし、部活もやめないといけないし、なにより、お金の面で優遇されていた学校を辞めるのは何よりイタイ。