その時、私は、自分の胸がやけに速く脈打っていることと、
でも、こうやって抱きしめられること自体は嫌ではないということを感じ始めていた。

 温かい体温に思わず、顔をうずめる。
 なんだか、昔、お兄ちゃんにこうしてもらったことを思い出す。

 両親が事故で亡くなった日。
 こうやって、お兄ちゃんに抱きしめられて、その体温に安心した。

 私にはお兄ちゃんがいる。お兄ちゃんだけがいればいい。そう思った。



 でも今…。ここがすごく安心することに気づく。

 そして、お兄ちゃんの時と違ったのは、私の心臓の音と、それの上をいく相手の心臓の音。
 蓮の心臓の音はとんでもなく大きく、とても速くなっている。

「すごい心臓の音」
「あはは。そりゃ、好きな子抱きしめてたら、誰でも緊張するよ」
「蓮も、緊張なんてするの」
「試合より、今緊張してる」

 また、ぎゅう、と抱きしめられて、私はその心地よさに目を瞑った。
 誰かに安心するなんて、これから先、ないと思ってた。

 しかも、相手は、私が苦手だと思っていた蓮だ。