足音が遠ざかって、私はほっと息を吐く。
あぁよかった。アイツがいた方とは反対側の階段から逃げ帰ってしまえば、『今日』という最悪な日は終わる。
静かになったのを確認して、私はそっと扉を開けて顔をひょっこりと出す。
右、左、よし。誰もいない。
スカートの裾の埃を払って立ち上がると同時に、右腕が掴まれた。
心臓がバクン、と音を立てた瞬間、その無駄に長身でガタイのいい身体に吸い込まれるように、背後から抱きしめられる。
「つかまえた」
その楽し気な蓮の声とは裏腹に、私は人生のどん底にいるような気持ちに陥っていた。