「は?」
私はポカン、と口を開けて、その後、ぎりぎりと歯を噛んだ。
「何言ってんのよ! 教師が学校サボるな!」
「頭痛い! 風邪かも! そういえば頭もいたい!」
「『そういえば』ってなんだ⁉ このバカ兄! じゃ、熱測りなさいよ!」
「測らなくてもわかるの! これ、ほら、アレだ! あの感染力強いのやつだ! みんなにうつしたらアレだからいかない! アレだから! そう! アレだから!」
先ほどから『アレ、アレ』うるさい。
私は目を細めて、布団にくるまったミノムシのような兄を見る。なんだろう、この既視感。兄が持っていた昔の漫画でこういうの見たことあるわ。
「とにかく、本当に風邪なら病院行かなきゃだし、熱測って」
「いやぁ! 測りたくない!」
「とにかく測れヤ!」
布団をもう一度引きはがして、丸まっている兄を見下ろす。
そして兄のおでこに手を当てると紛れもなく平熱だった。しかし、触っただけではわからないかもしれない。兄のワガママをぐうの音も出ないほどケチョンケチョンにするには、実際の体温を見せるしかない。そう判断して、ため息をつくと、体温計をもってきて、兄の腋に放り込んだ。