私たちは、小さな休憩室に移動する。
 椅子に校長先生が腰かけ、その前に私と兄が並んで座った。

 すると、校長先生は私たちをまっすぐ見せ据えて、

「私はもともと日比谷会長の第三秘書をしておりました」

と言い出した。


「それって、日比谷のお祖父さんの……?」
 兄が聞く。

「えぇ。それで、この学校に蓮さんが入ることになってからは、お目付け役としてここに」

 会長秘書がお目付け役って……なにそれ。すごい世界だ。
 やはり蓮とは住む世界が違うらしい。そんなことをぼんやり思っていた。


「実は昨年、蓮さんは、会長の意向で様々な社交界の場や勉強の場に駆り出されていまして部活も時々休まざるを得なくなりました」

 私はてっきり蓮はさぼっているものとばかり思っていたので驚いた。

「蓮さんは昔から何でも器用にこなすタイプで、これまでも、必死になるようなことは何もなかったんです。しかし、そういう人間に、周りは『力を貸したい』とは思いません。そういう意味で、トップに立つ素質が十分でない、と会長は考えられていたようで、必死に色々と模索されていました」

校長は続ける。「でも、最近、蓮さんらしくもなく部活に必死になっていて……周りが心動かされてきたというか。部活も、この県大会に優勝するまでは参加したいと必死に会長に頼み込まれていました」

 それはあの約束のせいではないだろうか。
 私がチラリと兄を見ると、兄は渋い顔で頷いた。

―――っていうか、あんな約束一つでみんなが驚くほど必死になってる蓮って……。

 私はなんだか恥ずかしいやら、嬉しいやら、どういう感情の名前かわからない感情に包まれていた。