その日は、紛れもなく、いつもの朝だった。

 私と兄は、この私立日比谷学園高校にほど近い、狭い2DKのアパ―トに住んでいる。
 カーテンを開けると、窓から入ってくる光は、東向きということもあってか狂暴なほど明るい。

 そして件のバカ兄はいつも通り奥の和室で寝ていた。

 『お兄ちゃん、おはよう』と優しく、語尾にハートをつけて起こす趣味は私にはなく、私は無言で兄の布団を無理やり引きはがす。
 兄は、Tシャツにトランクスだけの姿で、私のようないたいけな女子高生には目に毒にもなりそうな恰好がさらけ出された。
 身長は185あり、均整もとれている肉体。一応バスケ部顧問で、もともと兄自身もバスケをしていたが、今はほとんど、運動らしい運動はしていない。正直、無駄な筋肉と身体だ。

 そういえば、と同じような体格の持ち主であるクラスメイトの顔が浮かぶ。アイツの場合は、こんなふざけた格好で寝ていることはなさそうに思う。パジャマ? シルクとか? ツルッツルのやつ、着てたりして。それもそれで似合わないな……。
 そう思ってから、何を想像しているのだろうと頭を振った。朝から女子高生が考えるような内容ではない。

 兄はそんな状況でも、まだのんきにグースカ寝ており、私はその兄の無駄にでかい身体をゲシリと蹴り上げた。

「起きなさい! もう学校遅刻するよ!」
「いやだぁ」
「『いやだぁ』じゃない!」

 かわいい声にゾワリと背筋に鳥肌が立つ。怒りに任せて、もう一度蹴りをお見舞いした。「今日、職員会議あるって言ってたじゃん!」

「やばっ!」

 そう言ってやっと起き上がった兄を見て、ため息を一つ。ヤレヤレ、相変わらず世話の焼ける……そう思った途端、兄は何を思ったか、また布団を頭からかぶって最初の状態に戻ってしまった。そして一言、

「やっぱり今日は休む!」

と言うのだった。