だって蓮は、何でも持ってるし何でもできる。私たちとは全く違う。
無駄あがきも、悪あがきも、焦ることすらないのだろう。
そう思ったとき、ちょうど私のアパートの前まで来ていた。
私は立ち止まる。
「蓮はいつも何でもできるし、何でも持ってるから私たちがバカみたいに見えるよね。でもね、お兄ちゃんは必死だったんだと思う」
方法と内容はさておき、兄は、必死だった。これまでもずっと。「私、両親が亡くなった時、こうやってちゃんと高校まで行けるって思ってなかった。お兄ちゃんが頑張って仕事見つけて、この学校の教師になってくれて……私を高校まで行かせてくれた」
私は続ける。
「あんなバカ兄だけど、私には信頼できる唯一の人なの! お兄ちゃんが困ってればなんでもしたいって思う。でも、こんな私たちは蓮みたいな恵まれた人には滑稽にうつるんだろうね!」
なんだか泣きそうになってきた。なんでこんなことで泣きそうになっているんだろう。
自分と蓮の違いが、酷く恥ずかしく思えたからかもしれない。
―――でもこれは、ただの八つ当たりだ。
蓮は静かにそこに立っていた。蓮が怒っても仕方ない。やっぱり怒らせた……?
私はやけにドキドキしながら、蓮を見ていた。蓮は寂しそうに笑うと、
「……そうじゃないよ」
と言う。
「僕が笑ったのはバカにしたからじゃないよ。別の理由」
と言って続けた。「ま、あんな必死な大和先生見て驚いたのは確かだね。あれはあれで、感動的だったよ」
「あれはあれでって……」