「負けず嫌いだよな」
 森本先輩が蓮に言う。蓮は汗を拭きながら、

「負けられないんですよ。県体、優勝するまで」
「お前、優勝する気なの」
「するしかないでしょ」
「でも、最後は江戸南と当たるんだぞ」
「別にどこと当たっても一緒です」

 水を飲みながら飄々と言う蓮に対して、森本先輩は突然大きな声で笑いだす。

「それもまぁ、そうだな」
「でしょ」

 二人が笑い合っていて、部内の空気はやけに明るくなっていた。あの二人……いつの間にか意気投合しているらしい。私はため息をつく。


 チームが団結力を強め、蓮もみんなも強くなっていくのを見ながら、私は複雑な思いに駆られていた。そりゃ強くなっていくのは嬉しいし、みんなには勝ってほしいけど……優勝はしてほしくない。その理由は、やはりあの約束だ。

 そもそも『好きにする』って、一体何なのだろう。
 使いっ走りとなっていろいろさせられるくらいだといいのだけど、なんだか分からないながらに嫌な予感だけはする。そんなことを、私はスコア表をつけながら考えていた。