兄はむくりと起き上がると、
「では、どうすれば練習にも、試合にも出てくれるんだ?」
と当たり前のように聞いた。

 今すぐどちらも殴りたい衝動を抑えながら、私は荒ぶる息を整えて二人を眺める。

「練習出て、県大会まで出なきゃいけないんでしょ?」
「できれば優勝してくれ」

 兄は兄で、軽々しくそんなことを言う。そんな気軽に言うなよ……。

 少なくとも、バスケは一人で行うものではない。今まではいくら頑張っても5位どまりだったのだ。それで簡単に優勝なんてできるはずない。


―――っていうかさ、この二人の会話聞いてたら頭おかしくなりそうなのは私だけだろうか。


 そんなことを思っていると、突然、

「『ひよりを一日好きにできる権利』くらいないとやれません」

と蓮が言い出した。

 私は突然、自分の名前が出てきた理由が全く分からなくて、目を白黒させる。


―――こいつ、今、何言ったーーーー?


「優勝できるのか」
「それなら優勝します」
「しかたない。では、それで合意しよう。県大会で優勝したら、ひよりを一日好きにしていい」


―――こいつ(バカ兄)も、今、何言ったーーーー⁉


 私が呆れと驚きと、そのほか、訳のわからない感情で口をパクパクさせていると、蓮は私の右肩をポンと叩いた。

「楽しみだね、ひより」

 兄も私の左肩をポンとたたく。

「すべてはひよりの肩にかかってるんだぞ」

 二人の言っている意味も何もかもすべて分からなくなって、私はその場に倒れた。