上履きシンデレラの逃走




「昨日は悪い夢を見た」

 さわやかな朝。
 昨日の出来事はすべて夢だったと思い込む作戦を決行した。
 大抵のことはご飯を食べてお風呂に入って寝たら解決するのだ。

 顔を洗って朝ご飯を食べて歯を磨いて制服を着て登校する。
 いつもの日常、これまでと同じ平凡な一日の始まり。

「おはようございます、ユリカお姉さま」
「ユリカ様、鞄をお持ちます」

 私の作戦は玄関を一歩出たところで辛くも崩れ去った。
 酷い。神様のドS。私が何をしたっていうの。
 清廉潔白の身の上とは言わないけど、ここまでの仕打ちを受けるほどの悪事を働いた記憶はない。

「いや、その、二人とも放っておいてくれない?私一人で登校したいタイプだし、鞄も一人で持てるから」

 この二人と一緒に登校なんてしてみろ。
 私の学園生活は灰色を通り越して暗黒に染まる。
 勘弁してほしいと後ずさりすると、二人の表情が一変した。

「そんな、お姉さまは私がお嫌いですか?」
「女王様、そんな気を使わないで罵って馬車馬のようにこき使っていただいて構わないのですよ」

 うるうると涙を瞳いっぱいにためる茉莉ちゃんと、物足りなさそうにほほ笑む成島先輩。
 お前ら昨日、告白して告白されたペアだろうが。
 いっそ二人で登校しろよ、私を巻き込むなよ。

「いや、いいから、遠慮するから」

 じりじりと二人から距離をとり、一瞬の隙を突いて走り出す。
 逃げ足だけには自信があるのだ。

「お姉さま!」
「女王様!」

 やめて、二人して叫ばないで。

通行人が何の騒ぎかと驚いた顔で見てくる。
 同じ学校の制服を着た生徒もいたような気がして、目の前が暗くなる。
 背後から私を呼ぶ声がするが聞こえないふりして全力で膝を上げた。

 さようなら私の初恋の日々。
 お願い帰ってきて私の穏やかな日常よ。
 学校についたら亮介の元に駆け込もう。どんなに抵抗されても紗奈ちゃんを盾にしてでもどうにかして協力を仰がなけば。

 さもなくば、私の高校生活は地に落ちるだろう。
 唯一の救いは、連続遅刻記録を更新せずに済みそうだということくらいだ。