ユリカの初恋は儚くも砕け散った。

 ありきたりな一文で申し訳ないが、事実、私こと冴島ユリカの初恋は叶わずに終わってしまったのだから仕方ない。


 相手はサッカー部の先輩。
 それは入学早々の出来事だった。同じクラスで隣の席というだけで連絡先を交換したばかりのクラスメイトに連れられて応援に行ったサッカー部の練習試合。そこでプレーをする姿に一目ぼれしました、はい。
 なんと安っぽい思い出でしょうか。
 でもしかたがないのです。高校生という多感で青い時期はたった一つ年が離れているだけで、その相手が大人びて見える未熟な生き物。
 周りよりも頭一つ高いす引き締まった体型だとか、日に焼けて少し色あせた茶色気味の髪とか、シュートが成功した時に見せるちょっとかわいい笑顔だとか。
 全てが光り輝いて見えて、私は先輩に釘づけになった。

 この地域一番の進学校である我が校は、文科系の部活が強い。だが、サッカー部だけはそこそこに実績もあり運動部の中では花形だ。
 当然、ファンが多い。
 その中でも先輩はとびきり大人気のようで、練習試合だと言うのに先輩の名を呼ぶ黄色い声援は尽きない。既に私は出遅れていたのだ。なんということでしょう。
 私を試合に連れ出した友人は他の先輩がお目当てだったらしいので、幸運にも血を血で洗う恋のライバルにはならずに済んだ。
 むしろ、同じサッカー部に在籍する先輩に恋する仲間として私たちはそれ以来、大親友となった。むしろ戦友である。彼女と手に手を取ってサッカー部の練習を見学したり、各々のお目当てである先輩たちの目撃情報を交換し合う日々。
 先輩を見るためだけに遠回りして校舎を歩いたり、先輩が持っているというだけで同じタオルを買ってみたりもした。先輩のことを考えるだけで胸の奥がぎゅっとしてドキドキが止まらなかった。少女漫画や恋愛小説を読んでは、先輩と私で妄想したりしてひとり大騒ぎをしてみたこともあった。
 まさに花の女子高生時代を謳歌していたと言って間違いないだろう。