「そうだと言えばそうなる。あの猫や人間に何かしてやりたいと思ったわけじゃないからな。まぁやることが結果その手段にはなり得るだろうとは思ったが」
店長が私のために動いてくれていたということが嬉しい。だけどそれと同時に。
「雪の桜が正直私の努力の結晶よりもとても綺麗だったので悔しかったです」
「いや、それは」
「ですが本当に嬉しかったです。綺麗な桜を咲かせることよりも、モモさんや小原さんの心に寄り添い二人が納得できる形にすることのほうが重要でした。だから私の桜と店長の桜、どちらもその心に寄り添えたのではと思います。本当にありがとうございました。色屋最高ですね」
そうして笑うと、店長は微笑んだあとでなぜか表情を固めた。
「俺の仕事は生き死にに関係のない娯楽だ」
「はい。ですがその娯楽で救われる人もいます。自分をもっと好きになることができたり、誰かに感謝を伝えることもできる。そんな手段に使ってもらえるのはすごいことです。だから店長のことをとても尊敬してます。……店長?」
店長の様子が少し変わった。また何かおかしなことを言っただろうか。また言葉を間違えたのだろうか。それでもそれは本当に私が思うことなのだけど。
「……俺は以前お前に色屋としての誇りを語ったな」
「はい」
「その思いは本当だ。俺を動かす原動力になっている」
「はい」
店長は何を言おうとしているのだろう。
「だが今の俺の全てはそれだけじゃない。俺が色屋をしているのは…………罪滅ぼしだ」
「罪滅ぼし?」
「そうだ」
「それは、帝から禁色を奪ったというのと関係がありますか?」
「っ、何で、お前さんがそれを……」
それは店長が今までに見せたことのないほどの明らかな動揺だった。その様子だと当たりだろうか。それはいつか聞こうと思って、だけど店長から話してくれるまで待てばいいかと思っていたこと。
「実は借金取りに襲われたとき」
「早苗!!!!」
そのとき突然ヒヨコさんが飛び込んできた。珍しく随分と慌てた様子だ。
「ヒヨコさんどうしたの?さっきぶりだね」
「今すぐそいつから離れろ」
「え?」
「そいつは飽月。色を変えるあやかしなどではない。色を奪い命を奪うあやかしだ!!」
その言葉には一瞬にして辺りを沈黙に支配する力があった。だけどそれは私がすぐに意図して明るく打ち破った。
「何言ってるのヒヨコさん。店長は秋月さんね」
「名前など知らん!そいつは飽月というあやかしなのだ!」
「飽月って……」
その真意を語ることを委ねて私は店長に視線を向ける。その間にもヒヨコさんは「いいから早く離れろ!」と私を急かす。
それから店長はゆっくりと口を開いた。
「心配するな夜雀、山岡はすぐに出ていく」
「え?」
首を傾げたのは私だ。
「お前さん、今日でクビな」