私立星影学園は、大財閥当主の星影譲が設立した、超巨大なマンモス学園。
一度門を潜れば、幼等部・初等部・中等部・高等部・大学院まで備えられた巨大な敷地。家計が苦しく学校に行けない子供達や将来有望な才能を持つ特待生、不思議な力を持つ“能力者”を中心に集められている。

冬。冷たい風と共に、チャイムが鳴り響く。
“Star Shadow”というプレートの掲げられた、大きな両開きの扉。
中では数人の生徒が、中央のテーブルに向かっていた。

「天音、これ生徒会から預かって来た資料です。」

その内の一人がテーブルを離れ、その奥にある机に持っていった。
ファイリングされた資料に一通り目を通すと、天音と呼ばれた少女は、更に隣の机に手渡す。

「OK。ユキ、これお願い。」
「了解。」

彼等は《Star Shadow》。通称SSと呼ばれる、“能力者”を代表する選ばれた存在。

「今日来た中等部の転校生、理事長の推薦でうちに入るそうだな。」

土方和哉、高校三年生。

「理事長の推薦ですか。何か裏がありそうですね。」

沖田要、高校二年生。

「…能力値が高い、とか?」

斎藤純也、高校一年生。

「まだ中坊だろ?流石に俺達より能力値が高い訳ないだろ。」

原田砂那、大学二年生。

「中三の近藤廉斗、星レベルは四だったらしい。勉強はともかく、能力においては結構優秀なヤツみたいだな。」

永倉倖成、大学三年生。

「理事長が気に入るくらいなんだから、きっと特別な子なのよ。」

近藤天音、高校二年生。

天音達は能力を人助けの為に使おう為、こうしてSSとして日々生活している。
能力者の力は五段階で評価され、数字が多い程能力のコントロールに優れているとされる。しかし、星五になった生徒は歴代でも三人だけである。


「放課後ここに来るように言ってあるらしいから、もうすぐ来るんじゃないかしら。」

天音がそんな事を言った矢先。大きなノックの音が聞こえる。こちらが返す間も無く、大きな扉は開けられた。
女性には少し重めの扉を、軽々と押して入って来たのは小柄な少年。明るい茶髪と笑顔が印象的な彼は、目を輝かせながらこちらに向かって来た。

「ここが“すたーしゃどー”?近藤廉斗いいます。よろしゅう!」

関西弁の人懐こい無邪気な笑顔が、まだ幼さを感じさせる。
SSにいる彼等は皆、その能力故悲しい過去を持つ。普通の人にはない魔法のような力。それを知ると、手のひらを返すように冷たい視線を送る、“友達”という名前の人間達。だんだん人を信じる事すら出来なくなっていくのだ。
しかし廉斗には、明るく前向きなオーラがある。その姿に癒されるのは、きっと天音だけではないだろう。

「はじめまして、Star Shadowのリーダーを務めさせてもらっている、近藤天音です。」
「天音センパイやね。よろしゅう。」

まだ幼さの残る廉斗の笑顔を見ていると、天音は不思議と心が和んだ。
どんな過去だって、忘れてしまえる程に。

「じゃあ、みんな廉斗くんに自己紹介して。」

それぞれ自己紹介を済ませると、廉斗は興味津々な様子で問いかける。

「ここには能力者が集まるって聞いたんよ。オレは人より五感が鋭いねん。みんなの能力って、どんななん?」

いきなりの質問に戸惑う事もなく、天音は微笑んだ。
SSに集まったのは、能力を持つ人間。彼の興味に応えるべく、一人ずつ説明していく。

天音は人の傷や心を癒す力と、痛みを与える力。
和哉は電気を操る力。
要は温度を調整出来る力。
純也は風を操る力。
砂那は幻覚を作り出す力。
倖成は物を粉砕する力と、怪力。
そして廉斗は、五感を鋭く感じる力。

「オレ、霊感もあるんやけど…それは能力とちゃうんかな?」

霊感は能力者でなくても見える人が居るので、能力とはされていないようだ。
すると、砂那が少しだけ廉斗と距離を置く。

「…お前、見えるのかよ…。」
「う、うん…ごめんなさい。」

砂那が嫌そうに言うと、廉斗の表情も暗くなった。
転入早々嫌な思いをさせたくない。天音は砂那を軽く睨んだ。

「砂那。」
「わ、悪かったよ。別にお前の事否定してる訳じゃねぇから。」
「気にしないでね。砂那は幽霊とか嫌いなだけで、廉斗くんの事を嫌がってる訳じゃないから。」
「おい、言うなよっ。」

砂那は怖い顔をしているが、意外にも幽霊が苦手なようだ。照れて少し顔が赤い砂那を見て、廉斗も安心したように笑い返した。

「それにしても、廉斗くんは星四の能力者なんでしょ?前にも能力を使う事があったの?」

能力は体力と比例しているので、上手くコントロール出来ないと生命力を削る事になる。
力に目覚めたのが浅ければ浅い程コントロールは難しい。
暴走して被害を出さない為、学園では年に一度能力測定を行う。
もちろんこのSSのメンバーも、星レベルはバラバラだ。彼等はお互いフォローし合えるように、集団になっているのだ。
この学園は特殊な人達が集まっているため、ひどい虐めや喧嘩が毎日のように起こっている。
少しでも平和に、少しでも楽しく毎日を過ごしてもらいたい気持ちで、天音達は力を使っているのだ。
何故他人のためにそこまで出来るのかと言われると、それは、天音達自身辛い思いをして来たから。
人助けをしたくてこのSSが出来た事もあり、天音達は人を助ける事を優先する。
一通り説明を終えた天音は、また廉斗に向き直り、ニッコリ微笑む。

「この学園に来たからには、あなたも私達の大切な家族よ。星影学園にようこそ。近藤廉斗くん。」
「…家族…。」

失われた大切なもの。それを超える大切な存在を、もう二度と失いませんように。




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