「戻っておいで、俺のところに」
背後からは、少し懐かしい声が聞こえた。
振り向くと、そこにはもう会わないと決めていた彼の姿があった。
「ま、真人……?」
「ずぅっと見てたよ?」
恐怖で固まることしかできない。
それでも、真人は笑顔のまま近づいてくる。
まるで、わたしの表情を理解してないみたいに。
「振られちゃったみたいだね。良かった」
「は?」
「これで、君は今度こそ俺の“もの”になるんだよ」
王子さまのように手を取ってくれたけれど、わたしは怖くて怖くてガタガタと身体を震わせた。
「なん……で……?」
暗い景色の中、ふっと笑った彼の顔。
「決まってるじゃん。君は、あの男と結ばれなかった。つまり、1人でいるか、また俺の彼女になるかの道は2つ」
彼の声は、すごく静かだった。
だけど、それがとてつもなく不気味だった。