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まっすぐに家に帰る心境じゃなかった。突きあたりは例幣使街道と呼ばれる古民家が並ぶ通りだ。黒と茶色ばかりの建物群は地味でなんの魅力があるのかぼくにはわからない。この先を右折すれば川岸に出る。カモたちを眺めてから帰ろう。


「ん?」


古ぼけた民家の合間から赤い日よけが見えた。ぼくはその日よけに向かって小走りした。1軒分の空き地には砂利が敷き詰められ、そこには深緑色の軽ワゴンが停まっていた。後部座席には窓ガラスと細長い板がついていて、中には腰の曲がった人がいた。ごん!と鈍い音がいして、車が震えた。同時に中から大人の男のうめき声が聞こえた。

車の向こう側から、その男の人が出てきた。ぼくは見上げた。すごく背の高い人だった。ぼくんちの冷蔵庫より大きい。でもやせっぽだ。車とおそろいの色をした深緑のシャツに黒いエプロンをしているから細くみえたのかもしれない。そのやせっぽの男の人は両手で頭を抱えていた。腰を曲げていたのは天井の低い車の中にいたからだと思った。