「ありません、今度は自分が、きちんと仕事をした上で頂いたお給料でお袋を支えたいと考えています」

「そうか、わかった」

「あのう、社長は自分のお袋をご存知なのでしょうか」

「あ、いや、女で一つでさぞかし大変だったんだろうと思っただけだ、仕事に戻ってくれ」

「失礼します」

俺は社長室を後にした。

「おい、海斗、社長に呼ばれたんだって?なんの話だったんだ」

俺に声をかけて来たのは同期入社の中村だった。

「うん、お袋のこと、母子家庭かって」

「今更?」

「だよな、困った事があったら言ってくれって」

「なあ、お前のお袋さんと社長って、付き合ってたとか」

「まさか」

俺は中村の言葉を本気にはしなかったが、不安が脳裏を掠めたのは紛れもない事実だった。

うちに帰って、お袋にこの事を話すと「父親がいない驍を心配してくれてるのよ、いい社長さんじゃないの」とお袋はあっけらかんと話した。

そうなのか、俺の考えすぎか。

しかし、お袋が声を殺して泣いていたことなど知る由はなかった。