それからすぐに琴葉は退院出来た。

中村は退院の日、琴葉に付き添ってくれた。

「中村さん、ありがとうございました」

「いいえ、気をしっかり持って、僕でお役に立てることがあったら遠慮なく言ってください」

「はい」

中村は琴葉をアパートまで送り届けてその場を後にした。

俺は霊体のまま、その様子を見ていた。

琴葉は部屋に入ると、片付けを始めた。

そして、部屋に鍵をかけ、出かけた。

琴葉、どこに行くんだ、こんな遅くに。

俺は琴葉の行動が気になり、あとをつけた。

琴葉は大通りに出た。

タクシーでも拾うのか?

と、次の瞬間、琴葉は大通りに飛び出した。

琴葉、危ない。

俺は琴葉を抱き抱えて、宙に浮き、歩道に琴葉の身体を下ろした。

「霊体さん、何で邪魔するんですか」

何でじゃないだろう、車に引かれるところだったんだぞ。

琴葉は俺がいるであろう方向を睨んでいた。

琴葉はいきなり立ち上がり、大通りに飛び出した。

俺はまたしても琴葉を抱き抱えて歩道に下ろした。

何やってるんだ、自殺じゃ黄泉の国へはいけないんだぞ、魂は地獄で彷徨い続ける。

いくら叫んでも、琴葉には聞こえない。

琴葉は泣きながら、「邪魔しないで」と叫んでいた。

俺は苦肉の策で、琴葉の身体に入り込んだ。

この身体をアパートに運ばないと、そう思って、俺は琴葉のアパートへ向かった。