俺は中村の身体から離れた。

「僕はどうしてこんなところにいるんだ」

中村は自分の行動を思い出せず困惑していた。

「お客様、これお忘れ物です」

喫茶店の従業員が中村に声をかけた。

「えっ?僕のじゃないですが」

「お連れの女性の方の物だと思います、店に入ってこられた時、身につけていらっしゃいましたから」

「あの、僕は女性とこの店に入ったのですか」

従業員の人は首を傾げて、「はい」と答えた。

中村にしてみれば、見覚えのない事だが、渡されたスカーフを受け取らないわけには行かなかった。

「僕は誰と一緒だったんだ、何で喫茶店に、入ったんだ?」

普通に考えれば、込み入った話があるから、わざわざ喫茶店を利用したんだろうが、中村は全く心当たりがない様子である。

それはそうだろう、喫茶店を利用して込み入った話をしたのは俺だからな。

また明日にでも中村の身体を借りて、琴葉にスカーフを届ける事にした。

俺は何のために霊体でいるんだ。

琴葉に真実を伝える為か。

俺がこの世にいない真実は、琴葉にしてみれば認めたくない真実だ。

琴葉への愛情は、琴葉にしてみれば信じられない真実だ。

それを霊体である俺がどうやって伝えるんだ。

この世にいないことは、あやふやなまま、どこかで生きていると思いたいのだろう。

琴葉への愛情は、急に連絡が取れなくなって俺への不信感が大きくなり、振られたと思いたいんだろう。

まだ俺が琴葉を愛しているのなら、連絡取れないのはおかしい。

連絡取れないイコールこの世にいないと結びついてしまうからだ。

俺は琴葉に愛している事を伝えたい。

それなのに、それが出来ないもどかしさ。

残りの時間で、琴葉を守ることしか出来ないのか。

そんな事を考えていると、琴葉の泣いている姿が脳裏に浮かんできた。

俺はすぐに琴葉に元へ飛んだ。