「ちょっと、待ってください、私は行きませんから離して」

「どうしてだよ、俺が琴葉を、じゃなくて、海斗が琴葉さんをふったんじゃないってはっきりするだろ?」

「でも、それって驍が亡くなったって、はっきり現実を突きつけられるって事ですよね」

えっ?そうか、俺は自分のことばかり考えていた。

琴葉がどんな思いでいるか、全く考えなかった。

琴葉は急に泣き出して、俺に訴えた。

「驍にはどこかで生きていて欲しいんです、亡くなったらもう絶対に会えない、でもどこかで生きていてくれてたら、会えるかもしれないじゃないですか、ほんのちょっと夢見ちゃいけませんか」

霊体でもいいから、振られたんじゃないって思いたいと言ったのは、あれは本心じゃなかったんだ。

俺は琴葉の腕を離して、自分の腕から力が抜けていくのを感じた。

琴葉はしばらく泣いていた。

「ごめん、あれは本心じゃなかったんだな、なのに俺は浮かれてた」

「何を言ってるのかわかりません」

「えっ?あっ、だからその、俺、何言ってるんだろうな」

しどろもどろになり、狼狽えてしまった。

「これだけは信じてあげてくれ、海斗は琴葉さんをふったんじゃないよ」

「失礼します」

琴葉は俺にいや、中村に背を向けてこの場を後にした。